0131:俺の料理

 人が増えてきた、と、同時に、早急に考えないといけない案件が明確になってきた。


(料理人だな)


(え? まず最初に、ですか?)


(うん、だってさ、共有部分の掃除は、母屋で頼んでいるうちの弟子絡みの業者の人が、一緒にやってくれるそうだから問題無いじゃん? そうなると次は食事。甲田さんと的場さんなら、基本外食でも良かったけど。お漏らし増えたしなー。あと、さらに、ここの厨房、無駄にお金掛かってるからさ、使わないの勿体ないじゃん)


(ちなみに、何故、厨房がこのように本格的に? 正直、我が主君マイロードのご意向だと思っていたのですが)


(これも、ばあちゃんの御命令である)


 なんでも、この手の一派郎党を率いる際、最初の第一歩には必ず、美味しい食事が必要なのだそうだ。共に食べ酒を飲むことで仲間の結束が固まり、強くなるのだという。あの。ばあちゃん、なんていうか、古典的な盗賊団とか義勇兵団とか傭兵団とかそういうのを想定してる?


(はっ畏まりました)


(あのーデザートとか作れなくても良いですか?)


(ん?)


(料理人ッス)


 それにしても、男三人が食堂でインスタントコーヒー飲みながら、パーティ会話という念話で話をする……ムチャクチャシュールだな。この絵面。


(デザートは……買ってくればいいんじゃないのかな? お漏らし以外、女子増えないよね? 多分。というか、人をいきなりそんなに増やすのはどうかと思うだけで、増えるときは増えるのかな?)


(その通りですね。女子は……多分……あれ以来、泰代も何も言ってきませんし)


(あ、泰代は忙しいみたいですよ? なんか)


(なら、やっぱ、事務所の人に説得されたのかな? うん、めでたしめでたし)


(あ、それで料理人なんですが)


(うんうん)


(一人ですが宛てがあります)


(それはステキです。的場さん、甲田さん。お願いします)


(……料理の腕は確か……というか、もの凄く美味しいんですが、デザートは苦手と公言してて)


(うん! そうだな……うん。苦手だな、苦手)


 的場さんと甲田さん、共通の知り合いらしい。うん、それは人柄や性質を疑う時間が無駄にならなくてとてもいい。


 それこそ。世の中には生来の流れで、「泥棒」「虚言」「ヒステリック」「勘違い」等のどうにもならない欠点を持ち合わせている人は結構多い。さらに価値観の相違もそこに関係している。正直、自分の生活空間にそんなヤバイ欠点やあまりに遠い価値観を抱えている人に踏み込まれたくない。


 まあ、ぶっちゃければ、自分よりも弱者となる……老人や女子供を殴る様なヤツとか、自分の子どもを奴隷かのように考えるヤツ……は、実際どうなの? と思う。


 正直、二人の紹介であれば、根本的にそういう地雷にはかすりもしていないだろう。


 現状既に、うちの会社はそれなりの資産、運用金を所有している。それこそ、俺らが迷宮探索中に何か悪いことをしでかされたら、どうにも止めようがない。まあ、当然、お金は銀行なのでそう簡単にどうにかできるとも思えないが、上手いこと事務書類などを誤魔化せば、ある程度ならちょろまかすことも可能だろう。


 そもそも、会社の収支的に考えて……今回は料理人だけど、それ以外に経理とか、会社として成立していくための最低限の人員……特に事務関係を処理してくれる人も入れないとなんだろうな……。ムズいなぁ。


 これは沢山あるんだから、少しくらいはいいだろう? と大きな気持ちになれるとかなれないなんていう問題じゃないからね。ただの横領だしさ。

 頑張ってくれてるのならそれなりの報酬を支払うことはなんの問題も無いし、相場よりも多めに支払うことはありだと思っている。俺、高校生だし、そんな会社で一緒に働くと言ってくれてるわけだし、そもそも、奨学生なのでお小遣いくらいのお金があればなんの不満もないのだ。自分の取り分を少なくしても全然構わない。


 というか、出来れば社長とかやってくれる人……がいればいいんだよな。俺はあくまで一探索者でいいのに。でもじいちゃんはそれじゃダメだって言ってたなぁ。


 でも、だからこそ、なめられるのはイヤだなと、子供だからチョロいぜっ! っていうのはね。うん。


 できる限り、俺の心もホワイト企業にしていきたい所存。


 妙にデザートは苦手……って言うのが気になったけど。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る