0129:帰還

 ボス階層、第11階層をクリアしたことで、ボスエリアの片隅にゲート部屋終端への入口が出現する。この中にゲートが。まあ、ここは池袋迷宮11-2という転移点となる。


 ゲート部屋に入ると、ここで転移点が更新された。


(うし、んじゃ帰りますか。ってその前に……)


 魔力移譲の術……というか、これは厳密にいうと術じゃない。無属性の術系の技、技術だ。


 非常に効率は悪いのであまり使われない、俺も使う気は無かったのだが、多分、お漏らしは少しでも魔力が戻ってくれば自力で起きることが出来るハズだ。そもそも転移で奪われる魔力も大したことがないし。


 で、さらに、今のボス戦の結果、お漏らしのレベルは少しは上がっているハズだ。魔力の最大値も迷宮に入った時に比べて、かなり多くなっていると思う。


 んー俺の経験則でいえば。お漏らしが今日、迷宮に入った時にレベル1だったとしても、最初のボス、11階層のボスを討伐したことで……多分、レベル5~6……最低でもレベル4にはなっている。で、レベル4ってことは、既に魔術士でなければ、魔力も一人前といってイイ量だ。少なくとも今後、ゲート部屋での転移で倒れる……事は無いハズだ。


 俺の魔力100が、お漏らしに魔力1くらいになって移譲される。と思う。確か効率はそんなもんだったハズだ。しばらくすると、お漏らしの顔色、血行が目に見えて良くなった気がした……と思ったら目を覚ました。


「あ、あれ……あれ……ああ、また私は……すい、すいません……」


(まあ、仕方ない。お漏らしがいない時に予定していたから……といって、こんな深い層まで一気に降りてしまった俺たちも悪いからな)


(いえいえ、我が君主マイロード、探索者の常識的な情報を失念していたのは我々の責任です。まあ、転移に魔力が必要というのも先ほど初めて聞きましたが)


(なんか、いきなりのドサクサだったんで、本庄さんが超初心者っていうのに気付かなかったんだよな)


(……というか、お漏らし、お前、迷宮に潜った回数、階層は?)


(……あの、始めての探索……で、宗主様に助けていただいて……)


(アレが始めて!?)


(は、はい……大学の同級生に誘われて、強引に……あの……)


(あれ以来、潜って……)


(無いです)


(ってことは「ガチ」で今日が本格的な迷宮デビューってことかぁ……もの凄いパワーレベリングになった気がする)


(それは良くあることです)


(ん)


 そうなのだ。パワーレベリングというと、昔は何故かなんとなく悪いイメージとか、ズルイイメージがあったらしい。技術が追いつかないとかそういうことなんだろうか? まあ、それは確かにあるのだが。命はたった一つしかないのだ。ズルイとかそういう問題じゃない。


 現在、探索者の常識としては当たり前というか。命がけの戦いが強いられる世界なだけに、最初のうちは甘やかしというか絶対安全な形で、最低限の能力を得るのは普通の行為なのだ。特に魔力は最低限無いと不便すぎる。


 ただ、身内でも無い限り、免許取り立ての探索者にいきなり親身になってパワーレベリングする熟練探索者はそういないし、気絶させてまで連れ歩く先輩探索者もそういない。


 お金が絡んでくるだけに、大抵が友だち数人で~とか、教習所で意気投合して~なんて感じで、スタート地点から平等で始めることが主流なのだ。ちなみに危険という事で、ソロは推奨されていないし、ぶっちゃけソロで迷宮に潜る探索者もそういない。涙。


 一部のお金持ちが探索者になった場合。その護衛で探索者が案内人として雇われて、鍛える……ということがあるくらいだろうか。

 当然だが、お金持ちとはいえ、初心者探索者を安全に鍛える「命の保証」をしなければいけないため、そうそう簡単に引き受けるワケでは無いらしいけど。うん、俺も依頼で普通にお金をもらって……って考えると、あまりやりたなくないな。

 これは、貴族の子息が冒険者になった場合、自分のとこの騎士団を配下にして自分は安全なところにいるまま、レベルを挙げる……のと全く一緒だ。日本は身分が無いからね。その分お金がね。いるけどね。


 ちなみに護衛依頼は非常に高額らしいけどさ……うーん。超大金、一千万単位であれば考える……かな。数百万じゃ……別に自分で稼げばいいしなぁ。。


 

(よし、最低限の魔力も戻ったということで、帰還しよう)


(はい)


(はいー)


 的場さんも頷いた。


 ゲートに触れて「帰還」をイメージする。一瞬でパーティメンバー全員が第一階層終端1-2のゲート部屋に転移した。


 帰りの支度だ。


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