0126:お漏らしムダにスゴイ説

(そもそも世界各国……迷宮の存在自体を隠している国も多いですからね。隠れ迷宮とか言われてますけど。その辺は当然、記憶しようが無いです。データが無いですから。しかし利権確保したいのは判りますけど……客観的に判断すれば。ちゃんと商業ベースで迷宮出土品を産業化できるようにするには、現状日本の協力がないとどうにもならないことを理解して欲しいものです)


 おいおいおいおい。世界の迷宮って……幾つあると思ってんだ? 


 東京近郊の迷宮だけで百を超える。現状、日本全土で五百ちょい。世界だとさらに五百、合計で千ちょいといった所だった気がする。確認されている迷宮は。


 だが。


 つまりは……こいつは、日本の迷宮五百チョイ。そして迷宮局にある外国の迷宮……確か百弱だったハズだ。合計六百は覚えていると。何も見ずに全階層の特徴、魔物、主要特産アイテム等が出てくるって。マジか。


 残念な部分を帳消しに出来る長所も併せ持っていたと。まあ、そうか。それくらいじゃないと、うちの大学の迷宮科には合格出来ないよな。


 彼女のお祖父さんが、ぜひ、とお薦めしてくるだけのことはある。と、いうことか。


 出現して以来、パーティ会話によって残念な部分のみが突出してしまったが……記憶、記録に関して、天才的な能力を持っているということなのだろう。なんだっけ、サバンだっけ。こういう人のこと。


(スゴいな)


(ほ、ほめやり、たっ! 抱いて下さい!)


「あ」


 速やかに顔を真っ赤にしたお漏らしは。再度意識を失った。的場さんが慌てて支える。


 まあでも、確かにスゴいんだけど。研究者としては非常に有用……なのかな? でも。通常の探索者の実務的には……そこまで必要になる能力かと言われると……うん、無駄知識だよね、で終了って感じだろうか。だって、通常の探索者の場合、そんなグローバルにモノを考えないからね。


 ○○って迷宮素材が高額取引されそうだ。よし、○○迷宮の第○階層にいる××って魔物がドロップするらしいから、取りに行こう。よし、××って魔物の情報を調べてから行こう……って、フローで行動をする。


 探索者の基本行動が「金になるアイテム」なわけで、それさえ知っていれば良いんだよな。


(というかさ……さすがに……こんな回数、気絶するとか、意識を失うって、かなり体に悪いんじゃなかったっけ?)


(悪かったハズです。迷宮内で気絶、失神は聞いた事がありますが、ここまでなのは。大抵は数十秒で意識が戻りますし)


 まあ、回復、回復。


 顔色を確認する。ちと暗い。こうして見るとそこそこ可愛いというか、整っている。俺の知っている限り、クラスメートの中でこんなに可愛い御人形さんみたいな娘はいなかったと思う。


 あれだ、つい最近、整っている顔、世界ナンバー10に入るような美人さんを見ちゃってるからだな。まあでも、クラスで一番可愛いレベルではある気がする。そんなレベルの娘、しかもお姉さんに、ステキ、とか抱いてなんて言われて、うれしいという気持ちが真っ先に湧いて来ないのは何故なんだろうか? そうさせない彼女の残念な要素に少々悲しくなってくる。


 少なくとも、こんな風に明け透けにアプローチされるのは初めてな訳で。俺が慣れてないからなのかな?


(こいつ、今日既に……九も階層を進んでるからなぁ。……詳しく聞いてないけど、多分……初心者で魔力少ないんだよなぁ。無理しすぎたか。いくら俺らがパーティメンバーにいるといっても限度があるってことなんだろうな)


 とはいえ、気絶するタイミングがなぁ。パーティ会話で自分の感情が高ぶった時に限って気絶って……。うーん。何かある気がするけど。


(それもそうですね。普通10級の探索者はまず、狙いの低階層、大体最大でも五階層くらいまでですか。一階層踏破するのに一日。次の日、そこに跳んで、ワンフロアに滞在して、魔物と戦い、帰還……が普通です。一カ月、二カ月はそんな調子でしょうか。それを……8級になるくらいまで繰り返す根性がないと……生き残れません)


(だよね。とはいえ……今すぐに戻るのは面倒だな……もうちょい先へ行こうか。彼女抱えて、ボス倒して帰還。それが一番早いし、これ以上彼女の身体に負担が掛からない。というか、迷宮に入る事すらサッパリだったのか。戦闘経験があるようには見えなかったけど、いきなり着いてくるとか言うから……)


(はい。自分も……そう思っていました。我々に着いてくるということがどういうことなのか。その根本が判っていないくらい、初心者だったと……)


(そうだね~)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る