0125:お漏らし式記憶記録

 そう、何故? だ。


 迷宮のゲート部屋はどれも同じ間取りになっている。十メートル四方の部屋にゲートが一つ。それしか存在しない。空調がとかそんなモノも存在しない。そもそも、この部屋には埃すら積もらないのだ。


 迷宮局が判りやすい様に第〇階層始端と書いたりとか、〇-1というプレートを貼り付けたり、緊急避難用の物資を置こうとしたそうだが、全て一定時間で迷宮に吸収されてしまったと言う。

 迷宮局出張所の様な、人口の建造物や物を置いて、それが維持されるのは第一階層の大門から飛んで来た周辺のみ。

 つまり。ゲート始端、終端の部屋は全て共通であって、その外見……パッと見などから階層を判別する事は不可能なのだ。


(えーと、迷宮局発行の迷宮見聞記録によれば、始端ゲート部屋を出て正面に正方形に近い大岩。その奥には小高い丘。枯れかけのヒノキの様な木が二本。稀にこの視界にワシに似た魔物、ビッグイーグルの姿を捉える事もある。この階層の記述です。各階層のマップは変更されてしまう事があるので覚えても無駄ですが、ゲート部屋から出た直後の風景は、なぜか、ほぼ変わることが無いと言われています)


 ああ、その通りだ。ほぼ変わることが無いので、行き慣れてくるとさすがに覚えるようにはなる。そんな場所が俺にもある。というか、巣鴨の低階層は大体そんな感じで覚えている。


 だがそんな……迷宮案内の各階層の文章による描写は……覚えているものだろうか? 一度読んで何となく覚えていて、確認して、確かにそんなことが書いてあったなと、思い返す事がギリギリあるか、ないかといった所だ。

 迷宮見聞記録は迷宮局発行の資料集で、初期の刊行分は、写実的なイラスト付きの図鑑とでも云うべき装丁、内容だったが、現在では迷宮の多さもあって、文字だけの簡易な物になっている。


 覚えてるって……手元にメモとか手帳があって、それ見ながら話しているわけじゃない。いや、ひょっとして、こいつ……。


(お漏らし、日比谷迷宮、第二十四階層)


(? ひ、日比谷迷宮、第二十四階層は、通称芝生広場、始端のゲート部屋正面に眼鏡岩と呼ばれるランドマークが見えるはずです。出現モンスターは、グランドウルフ、フィールドウルフ、ポイズンウルフ、マッドコンドル、グランドワーム、マッドシープ、グランドシープ……ですか? 現時点での特産品は~うーん、数年前まではグランドシープの落とす「羊の魔晶石」がかなり美味しかったんですが~)


(錦糸町の第八階層)


(あ、え、えっと、錦糸町迷宮、第八階層はーえーっと、あー臭そうです。腐臭の大地地帯、始端のゲート部屋出てすぐに丘が見えて、その上に結構大きめな枯れ木。その向こう側に毒沼ですね。出現モンスターはアンデッド系ばかりですね。スケルトン、ウルフ、クロウ、ドッグ、ゴブリン……全部骨とか腐れとかそんな感じです。特産品というか、研究材料としても人気なのが、墓暴虫……でしょうかね。これ、見つけて捕まえて、ナイフを刺してトドメを刺して、そのまま保存庫に入れて持ち帰ればかなり高額で買い取りを~)


 甲田さんと的場さんがポカンという顔をしている。この二人、結構、ビックリした時の反応が似ている。さすが幼なじみ。


(メモ……じゃないよな。どれくらい覚えてんの?)


(あ、はい、メモとか持ってないです。えっと、えーと……最新情報の更新は大体、日曜の夜ですねー。あとは迷宮局の発表があると、順次って感じでしょうか)


(本庄君、つまり、君は、日本の迷宮全ての階層毎の特徴と魔物の情報を記憶しているということでよろしいですか?)


(あ、はい。違います)


(違う?)


(日本じゃなくて、全ての迷宮、世界の迷宮ですね。本当の所を言えば、迷宮局が公的に発表している迷宮情報をまとめたデータにあるモノのみ、ですが。日本の迷宮局が持っている諸外国の迷宮の情報はまだまだ少ないので~さっぱり完璧ではないです)




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