0124:お漏らし荷物中
お漏らしは再び、的場さんの荷物と化した。まあ彼女がお荷物だとしても、別に俺たちの戦闘能力が落ちるわけではない。
そもそも、変異の起こった巣鴨と違い、池袋のこの辺の階層には自分たちよりも格下の敵しかいない。
スカウトである甲田さんが広範囲を斥候しながら進んでいるので、常に先手が取れる。そして、的場さんの守護者としての能力は、かなりレベルが高い。彼が敵を引きつけているうちに、俺が魔力節約の実験も兼ねて、一匹づつ初級魔術で仕留めていく。少々数が多い時も、斥候遊撃で回り込んだ甲田さんが背後や死角から急所を突いて手伝ってくるので問題は無い。
甲田、的場の二人はタダでさえ地の力が強い。そこに初級とはいえ、俺の付与魔術が重ね掛けされているだけに、ほとんどダメージを喰らわない上に、確実に攻撃が当たる。
根本的に、現在の迷宮探索は……ココまでではないけれど、ある程度、実力に余裕を考えて行う探索者が多い。命が掛かっていることもあって、突発的な事故でも無い限り冒険はしないのだ。さらにいえば、日本人というのも関係しているだろう。
それこそ……探索者は迷宮で原則「禁酒」である。これ、当然だろうと思うかもしれないが、実はそうでもない。それこそ、日本以外の国では原則「自由」だ。そもそもルールが無いしね。
見張りに立たなくて良い場合。短い時間で熟睡する為の飲酒は「薦められている」し、いざという時の消毒にも使える、そもそも、うちの国ではこれくらいの酒は水だ……というのが常識として知られている国もある。
確かに。だが。結局、酒があるとミスが増える。細かいデータを取ったのかは調べてないが、いつしか日本の探索者の禁則事項に「持ち込み、キャンプ内でのちょっとした飲酒は罪ではないが、基本、迷宮内での酒気帯び探索は禁止」となっていた様だ。
飲酒以外にも……細かいルールは多々存在する。緊急時以外、迷宮内で採れた食べ物や草、水などを口にしない。隠し部屋などを発見した場合、速やかに迷宮局へ届け出る……等。諸外国に比べれば明らかに面倒くさく、裁判沙汰になりそうな案件だ。
だが。そんな様々なルールが、探索者の生存率を高めているのは間違いないだろう。
実際には……倒した敵が落としたアイテム、特に肉塊や瓶詰めなんていう判りやすい食料品を、ついうっかり食べてしまう探索者も多いんだけどね。
ああ、キノコで亡くなる探索者は年に数人報告があるか。キノコ食が危険なのは地上と変わらないというか、迷宮のキノコは質が悪いし、種類も多いらしい。要注意。
というか、戦闘のたびに、お漏らしを地面に下ろすのが面倒くさくないかな? と思うくらいだ。っていうか、大変なのは的場さんだけだな。これ。
ちなみに、こうして気絶されている間、運ばれている状態でも、お漏らしの転移点は更新されていく。ゲート部屋に入った瞬間にフラグが更新されるということらしい。
なんとか10階層に辿り付いた。池袋迷宮のここから先は俺も進んでいないので、ここからも予定通り一階層毎、攻略していく事になる。
(え、ええと、池袋迷宮の第十階層、通称ハゲ山地帯、オーク、ロックリザード、ハゲワシ、マッドウルフ、ウルフリーダー……といった感じでしょうか?)
さっき、やっと復帰した、お漏らしが、懲りもせずにパーティ会話にチャレンジしてきた。
(も、もう、あの、私の気持ちなんてバレバレなので、気にするの、止めようか、な、と)
いやいや、気にして、羞恥心による円満退社でもいいのだし。
(この階層で本日時点で最も価値のあるドロップアイテムは、ハゲワシの落とす「頭部肉片」です。名前の通り、矢でヘッドショットとかして仕留めてしまうと絶対にドロップしないので注意です)
ほうほう。ん? この階層?
(お漏らし、この階層って?)
(おもら……え? 池袋迷宮の第十階層ですよね?)
(……何故、判った?)
甲田さんが確かに、という顔をした。
(我々は数を数えてますので、ここが十階層なのは当然わかります。が)
(お前はさっきまで気を失っていた。階層の確認なんてするヒマはなかったハズだ)
(お前って呼ばれるの……も、ステキ。あと、あの、えーとですね、あの、お、覚えているからですね)
恥ずかしくて顔を赤くするなら、表面上は思わなければ良いのに。
(覚えている? 池袋迷宮、この階層は始めてなんじゃないのか?)
(はい、初めてです)
(では、何故?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます