0122:本物
(なんかもう、ダメなんです! 宗主様の事を考えるとなんか、身体が熱くなって、思考がふらふらして、ご飯も喉を通らなくなって、こんなの初めてで! 助けられた時、見た瞬間に抱かれたい! と思ってしまって、それをこじらせてしまって暇な時間があるとオナニーしちゃって! 抱き枕を宗主様と思って毎日股に挟んでこすりつけながら寝てます!)
……ぶっ!
──なにこの娘……大人しい顔して何言ってくれてんの? って……あ! 本人も冷や汗たらたらというか、そうか。まだパーティ会話慣れて無くて、本音ダダ漏れ状態なのか! あ。
ドサ
倒れた。顔真っ赤で倒れた。もう、何をしていいのか、自分が何をしているのか認識しきれなくなって倒れた感じか。
放置してたのは悪かったと思うよ? 正直、忘れてたし。お漏らし探索者腕輪レポートもらった時点でなんていうか……「重い」っていうか。ちょっと引いたというか、うん。家庭教師は良いかなと思ってたんだけど。そういうタイミングじゃなかったじゃない?
甲田さんが頷く。
で、どこで聞きつけたのか……迷宮でいきなり合流っていうね。
俺たちが池袋で慣らし訓練してるって……どこで知ったのやら。あ。そうか。こいつ……確か私的に諜報部隊を動員できるんだっけ……。俺らの動きの把握なんてチョロいもんか。
それにしても……優秀なのは確かにそうなんだろうとは思う。だって、パーティを組む事になれている甲田さんですら、最初、俺に何か伝えてくるメッセージは全て、ちょい片言、単語が多かった。最近必死で意識して頑張って違和感が無い様になっているけど。
というか、そういうモノだ。パーティ会話で普通に「会話」する事など無いのだ。ちょっとした掛け声や、どうしても内緒で話したい案件、戦闘中の指示なんていう、限られた局面でしか使用しない。まあ、それでもとても大事な力なので、強い探索者、優秀なパーティほど慣れるようにしているだろうけど、普通はぶつ切れの単語会話レベルで問題無い。
それをこの娘、というか、先輩は、ダダ漏れにしたって……ここまで明確に会話、そして自分の意志を伝えてくる。頭の中で言葉が明確化している証拠……だったか? これもどこかで記事か論文を読んだ。
ああ、ダダ漏れの過去例として聞いたことがあるのは「スキー」とか「かわいいー」とか「やりてー」「抱いて」なんていう、そういう本能的な叫びのみだ。まあ、その本質が伝わってしまうことで傷付いてしまうってわけなんだけど。
彼女の場合、ダダ漏れにもホドがある。
(これ……どうしようか……)
(担ぎます)
的場さんが軽々と担ぐ。さすがイケメン。今日も池袋迷宮で自分たちの力試しというか、どれくらいのもんかの確認に来ていたのだが、お漏らしがいきなり合流したことで、既にアレな展開になっている。うーん。
しばらくすると、気付いて、お漏らしがしきりに謝り……歩き始めた。ぶっちゃけ、彼女のせいで目的の階層へ転移ができていない。時間がかかるが……これはもうしょうが無いのだろうか?
では……まあ、うん、どうにもこうにもなので、覚悟を確認することにしよう。
(過ぎたる装備は身を滅ぼす。実力が無いのに、高価な装備を身に付けていると、盗賊に襲われて命毎奪われる、その上。高価な装備は強力な効果があるのでそれに頼ってしまい実力が付きにくい。結果、強くなれず、身を滅ぼす。貴方のマズいところは装備を含めた自分の環境や状況をキチンと把握していないところだ。探索者であるのなら、常に自分を客観視するくらいでないと、立ちゆけなくなる)
(はい……)
神妙な顔で俯くお漏らし。
(本庄詩織。お前は我々とここで得た知識を露呈しないと誓うか?)
(は、はい、絶対に)
「宣誓」
この呪文は自ら、誓約を神に宣誓することで約束を違えられなくなる。今回の場合は、主に俺の知っている情報の漏洩防止だ。
(えへへー神に誓いって、結婚式みたいですねーステキー私もそんな結婚式を……)
なんだ、このピンクの恋愛思考は。っていうか、言っておいて、うわっ、しまった! って顔をすんな。恥ずかしいなら言うな。
パーティ会話は念話というか、テレパシー会話にはなるが、自分の気持ちがダダ漏れで嫌でも悟られてしまうわけではない。普通の会話と一緒で、口にして良いこと、悪いことの分別はちゃんとできる。し。そもそも、慣れるまではここまで文章は伝わって来ないハズなんだえけどなぁ。
(ふう……これは行動思考規制の上級の契約呪文だ。もう、俺の許可が無い限り、この会社で得た情報は一切発表出来ないんだが、判ってる?)
そんな簡単に受け入れていいのか? ちゅーか、この手の呪文も危ねぇなぁ。母さんの言う通り、広められないわ。絶対。
(判っていないと思われます、
(えー判ってますーどんな会社でも守秘義務はありますしー)
絶対判ってねぇ。
(感知。接敵)
甲田さんの報告と共に、魔物の気配、音、匂いが強まる。
戦闘は非常にあっさりと終わった。
オークは魔物の中でも非常に賢く、断末魔は人間に近い。パーティの力を生かした有機的な連携を仕掛けてくる。が。
「オーク六匹のパーティが、こんなに簡単に」
甲田さんが感嘆の声で呟く。
(最低限の能力付与しかしていないよ? まあ、三つ重なってるけど)
(み、三つもですかっ?)
(お漏らし、声が大きい)
パーティ会話でも声の大きい小さいはある。
(え、いや、おも、だって、あの、逢坂先生ですら、やっと、魔力の棲み分けが出来てきた所だって言ってたレベルなのに。三つの魔術を同時行使……同時詠唱ですか? というか、そもそも、詠唱って何を、そして先ほどから何も聞こえなかったのですが!)
この手の話題の際には内容が内容なだけに、パーティ会話じゃないとできない。というか、こいつ……既に慣れて来てる?
(あーうん、そうだねーんーと。面倒くさいんだよなぁ。説明が)
(本庄君、もう少し控えめに。そもそも。
おうふ。甲田さんから大前提きた。
(ああ、うん、まあ、そうだねぇ。魔術とは、神の力の顕現だね。神の御力を分けていただき、一時的に自分の意のままに行使する。つまり、一番大切なのは行使する強大な力が自分の力であると勘違いし無いこと……かな)
(か、かみ? 神様ですか? そ、それは何処の、いえあの、どの宗教の、ああ、そんな、これが事実なら、なんてこと?)
(本庄君、五月蝿い。君は既に宣誓したのだ。これらの事実は既に
(え? あ! あああ! そ、そういう、ああ! え? でも、こ、こんなにスゴい情報を、あの、迷宮学が一気に何段階も進化しそうなのに!)
(まだ早いってさ。その段階に無いって言ってたかな。犠牲無く得た知識は無責任な言論、行動を生むって)
(え? な、何です? その神様の様な発言は)
(俺にとっての神の言い分だからね。それを守らないと)
(神、ですか! 本物! 身近! ここに神がいますけど、私にとっては!)
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