0121:押し掛け

「最初の一矢を防がれた時点で負けを認めるべきでしたね……ということで、私も雇っていただけませんか?」


 ……え? 何そのモノのついで的な、熱血勇者系物語というか、ライバルが味方になる系バトルもの系というか、アイドルプロデュース系ゲームっぽいレアな展開というか。


 ああ、うん、まあ……俺がプロデューサーさんじゃないのは良く判るよ? 判る。社長だよね。俺は。社長ポジション、というか、現実に取締役社長だしな。うん。明らかに。で。ヨスヤの狙いというか、熱い瞳は……甲田Pを見ている。判りやすい。俺、知ってた。


 というか、こういうのって当たり前なのかな? うーん。魔物を倒したら、起き上がって「仲間になりたそうにこっちを見てる」……でもいいよね。


(……いやいや、現状、日本……いや世界中の探索者で最も有名なアイドルだし……。そもそも、契約とかしてるでしょ? 今の事務所に。あと、うちみたいな零細というか、小さな会社に不釣り合いというか)


「泰代、お前、契約があるだろ? 今の事務所と。あと、うちにお前が入るとなると色々と面倒だ。悪目立ちする」


「進次郎さん、酷い」


「泰代、兄ちゃんも同意見だなぁ。マネージャー、森田さんにはお世話になってるじゃん」


「……ぐすっ……」


 あ。泣かした。アイドル泣かした。


「あ」


「あ」


 兄ちゃん二人でなに見つめ合ってるんだよ……いや、こっちみんな。ムリでしょー? なんで、俺を見る?


 え? なに? これって言うこと聞かなきゃモードなの? 泣く子に勝てないってこと? ええーやめてよーこういうのを、年少者に丸投げって!


 女の涙に、いや女性に人一倍、免疫無いし! 


(こ、甲田さんに! 任せ、任せます)


「あ? え? 我が主君マイロード! そんな!」


(どうなっても良いので〜)


 ということで、甘える子供と、幼馴染みのお兄ちゃんの熱い会話の結果、ヨスヤがキチンと事務所の人に説明して、「もしも」円満で契約解除となったら、うちに来ることを検討するという約束をした。


 彼女とはそこで別れたが、的場さん曰く契約解除は難しいだろうということだった。CM等も決まったばかりだと言っていたらしいし。


 正直、現状、日本のショービジネス界に、キチンと芸能活動を行っている本当の探索者……は存在するのだが、とても少ない。その理由は……一番目立つ迷宮内での活動が撮影出来ないのと……モロモロのトラブルで怪我をしたり、最悪亡くなったりが重なってしまい、大手事務所が尻込んでいるとのこと。


 地味に……まあ、動画配信サイトなどで、迷宮外の活動を配信しているクランが存在する程度か。


 最近やっと、個人レベルで自分の迷宮での鍛錬結果を発表する配信者が増えてきたくらいだろうか。


 まあ、それはそれで仕方ない。迷宮=メカが死ぬ。と思われているし、実際にそうだし。そのイメージが先行して、探索者はそれ系のことをしない……という常識が構築されてしまった。


 ベテランの探索者は大抵、自分のみが知っている秘密の狩り場を隠している。


 もしもそれを明かしてしまえば、自分の優位が失われる可能性があるのだ。探索者は他人に深く踏み込まない変わりに、自分の技や知識には神経質になる。努力して敵を倒し、必死で身に付けた結果だ。大事にしないわけがない。しかもいつ対人戦が開始するかも判らないのだ。他人様の前でそれを披露するなんてもっての外だろう。


 実際にヨスヤは今日も迷宮に、護衛というか、SPの人たちをバッチリ撒いて来たらしい。そりゃぁねぇ。静音だけでも厄介なのに、透明まで使われたら。ねぇ。そんなの追跡出来るのは探索者の中でも限られた者だけだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る