0116:守護者
(どうします? 行きます?)
「ええ、リハビリも兼ねているので、お願いします」
(まあ、なら、普通に)
よっこいしょというスピードで、ロングソードを振りかぶり、肩当ての固い部分に乗せる。この肩当てにはソレ用のパーツが付いているのだ。
あ、ちなみに、二億の一部で俺の装備は一新している。とりあえず、繋ぎとなる予定なので、中古の森林狼革の鎧一式だけど。
剣を肩に担いだまま。両手で握ったまま、そのまま、フェイントを込めた足さばきで距離を測る。ああ、的場さん、結構巧い。尽く、俺のベストな間合いを外されていく。この人……かなり凄いんじゃ無いか?
「宗一は攻撃こそ、それほどではありませんが、防御に関してはセンスがずば抜けているのです。訓練で何度も稽古しているのですが……自分の攻撃はここ数年、彼にちゃんとしたダメージを与えたことがありません」
うん、その通りだね。頷く。
(じゃあ……当てていくよ?)
ああ、ちなみに、現在は迷宮だけど訓練というコトで、俺の得物は……聖剣だ。残念な事に聖なるオーラ力みたいなものは一切残っていない。なので、刃は無いし、ボロボロだし、折れないしで、訓練用には良いこと尽くめなのだ。
ゴスッ!
とはいえ、なかなかの鈍器である。質量を感じる音と共に、的場さんの盾が一瞬、歪む。
耐ショック強化カーボングラファイトの間に迷宮産特殊衝撃吸収ゲルを積層化して、ミルフィーユ状態にした最新素材を使用したその盾は、形を変形させて衝撃吸収、力を逃がす。
(おお~スゴイ)
とはいえ。力の入ってくる進入角に合わせて当てる盾の角度を変えないと、簡単に弾き飛ばされてしまう。
実は、それが盾役で一番必要な能力だ。敵がどの程度の力量か。それに合わせて、盾角度、持ち手の握り加減、体を逃がすレベルなのかどうか。
それらを一瞬で判断し、的確に俺の一撃を受け止めた。うん、的場さんかなりレベル高いと思うんだけど。
(これで何故……)
「宗一のランクが低い理由ですか」
(うん)
「表のランキングは……アレ、迷宮局発表の貢献度のデータと、関係者票が合わさって出ますから……ギルド職員からの評判や噂なんかが若干反映されたりしてます。それを「偽勇者」の「無双」間宮宗一に利用された感じでしょうか。ヤツは本質が陰湿でして。宗一は早い話、早い段階で目を付けられたということです」
(正義感から注意したとか?)
「それ以前ですね。最初は同名なのが腹が立った、そして顔が気に食わない。さらに一目惚れした妹に相手にされず、と」
(それは……んーまー仕方ないね)
「はい。ですがヤツはトップランカーです。偽ではなく、勇者と呼ぶ人がいる以上、その望みは叶えられなければならない……と、考える者もいるのです。本人を含めて」
そうだろうね。
(つまりは、デマ?)
「すべてではありませんが。宗一の前のパーティは、戦闘中にいきなり、亜種に襲撃され壊滅しました。生き残ったのは宗一と、妹の
(あー良くある感じだねー。で、能力が低いと噂が?)
「はい。実際には当時のリーダーが、間宮に煽られて無茶をしまして。新規狩り場の開拓として未踏破地域に踏み込んだのが原因だったのですが」
(ふーん。それ、何か臭うね。その未踏破地域に亜種が生息してるの……知ってたんじゃないかな)
「ま、間宮がですか? まさか?」
「……」
「いやそれにしたって、未踏破地域の亜種なんて、討伐出来なくても、発見だけでも名誉ある……! 確かにその後討伐したのは間宮だったか……」
(昔聞いた話で、すっげー良くあるというかさ。そこそこやるゲス野郎なら、それくらいの事は、息をするかのように仕込むよ? ライバル、気に食わないヤツ、口先だけで沈む可能性が有るのなら、いくらでも)
「……」
(ああ、ヤツはトップな訳だし、間違っても証拠や言質の取れるような発言、行動なんて……確実に証拠は残ってないでしょう)
「はい」
(悔しければ、二度と罠を踏まない事だね)
的場さんは頷いた。
(それとは関係なく、そのうち……偽勇者は駆逐殲滅するから。俺が。気に入らないんだよね……元々。アレを「勇者」とは呼ばせない。期待してていいよ)
「はっ」
「はい」
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