0115:加入

「と、いう事で、よろしくお願いします」


 案の定というか、偽勇者が仕掛けた襲撃暴行と冒険者に厳しい保険制度のせいで痛い目をみる所だった「探索者アイドル「ヨスヤ」の兄、的場さん」が甲田さんの企みに乗せられ、会社に加わる事になった。


 まあ、俺は術士(甲田さんに全否定されているが)。甲田さんがスカウトで斥候遊撃。的場さんはこんな細めの体躯で、盾ということなので、パーティバランス的にもステキということになる。


 しかも彼は話を聞くと、大盾の先端を大地に突き刺し、背後の後衛を護りきる「守護者」だ。何もしなくてもしばらくすると怪我が治っていく「治癒促進」、敵の注目を集める「挑発」。さらに「障壁」という盾効果を拡大するスキルも持っているし、使いこなしているらしい。これはなかなか。


 この三つが使える時点で、彼の戦闘スタイル……いやわかりやすく、ジョブとでも言うべきか。「守護者」として優秀なのが判る。


 使用武器は片手棍。刃を立てる必要の無い使いやすい武器種だ。


 偽勇者の使いっぱの……「鉄塊」と「黒き刃」だったかな? 二人に襲われた際に着ていたフルプレート・メイル一式はボコボコに歪んで使い物にならなくなってしまったそうだ。


「あれで生きてるだけ、めっけもんというかー」


 なので今着ているのは、金属鎧の下に着るガンビスン、アクトンと呼ばれているタイプの……今流行の言い方で言えば、布製の軽装フルアーマーだ。少し前までは金属鎧のインナーとしても使われていた。


 大抵、最初はどんなジョブでも装備出来る布製の鎧を購入し、盾系のジョブに就くならその上に金属鎧を装備してゆく。


 初心者パーティだと、金属防具はガントレットだけとか、グリーブだけなんて盾役も多いのだ。


 迷宮素材、マテリアルの世界は日進月歩で進化し続けている。


 現在の流行は薄手のインナーに各種パーツを着けていく合体ギミックが主流。男心を煽る感じだ。迷宮で状況に合わせてパーティ間で使い回しも可能(当然サイズ問題はあるが、男性と女性の差位で我慢出来る範疇だという)なのが大きい。


 的場さんが細めだと言ったが……脱げば見事な細マッチョだった。いや、どちらかといえば着痩せするタイプ……というか、筋肉が目立たないタイプ。

 そもそも、甲田さんが2メートル弱と背が高いから小さく思えるだけで、彼も身長は185センチくらいはある。俺と比べれば……ね。うん。


「こっちだ!」


 声を掛けられて、そっちを向いたジャンボラット。そこに多分「挑発」が発動した。


 あれが的場さんの「挑発」の鍵言キーワードらしい。


「えーと、「挑発」は敵の目を見たり、とにかく注意を引きつけてから使うと、効果が高いし、失敗しない気がしてます」


 ほほーその通り。いい認識だ。「挑発」は緊急時には敵を振り向かせる為にも使うし、使えるが、出来るならまず先にこちらを認識させてから使う方が、効果も大きいし、効果時間も長くなる。


 えーと、クラン? というか、会社に入るのに、まずは自分の実力をみて欲しいと言われて、池袋迷宮を降りてきたのだ。


(そういう気付きみたいなのを言ってくれると、実力がよりよく判って良い感じです)


「了解です」


 その辺のTipsというか、コツみたいなものは探索者にとって非常に大切な秘匿部分で、基本的に明らかになっていない。ゲームの様な公式の確定攻略本は無いのだ。まあ、鑑定系のね、アイテムが存在しないのがなぁ。致命的かもね。


 ステータスの表示とか、あったらあったで……世界中がパニックになりそうだから、今のママでいいのかもしれないけ3ど。


 さらに私闘とか裏なんていう要素があるために、探索者同士のスキル、テクニックの探り合いはかなりギスギスしているという。パーティごと、クランごとに秘事が多いんだよなぁ。


 そんな小さい部分に拘ってもなぁ……。と思う。探索者全体の底上げを考えると、基礎的な部分はマニュアル化した方が良いと思うんだけど。正直、ギルドでも、正確なデータの確保とか全体的な情報公開とか、その辺の流れは考えているみたい。現時点では滞っているってだけで。


 まあでもなぁ~過去の武術流派の隠蔽体質は凄かったっていうし。それこそ、うちの流派だって、部外者には露呈厳禁な技、流れ、そもそもシステム……まであるからね。情報に希少性、価値のある状況では仕方ないのかな。


 そういえば、的場さん……最初から敬語なんだけど……甲田さんに言われたりしたのかしら……。正直、明らかに俺よりも年上の大人の人たちに謙られるのは慣れているが、甲田さん、的場さんの世代にまでっていうのは慣れん。


 まあでも、それじゃないと許してくれないので慣れるしかないか。


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