0114:梁山泊

 個人事業主の場合、医療保険は国民健康保険となるが、的場さんの例に漏れず、迷宮での傷病に対する一般診療は尽く原因不明と判断され、保険対象外とされてしまう。


 その場合、諸外国と同じように自己責任で任意保険、個人保険に入ることとなる。ある程度稼げるようになったら、それが当然ってくらい入る。身体が資本の仕事だしね。


 でも。個人保険の税控除は迷宮以前のまま、一般的な職業と変わらず、二十万円までだ。探索者用の個人保険なんて大抵、最低でも月に十万円以上かかるのに。


 だが会社組織の場合、社会保険とは別に、保険会社の用意したさらに高額の企業用探索者保険、探索者年金に加入することが出来る。そしてそれらは全て経費扱いとなる。


 当然不公平だという声もたまに上がるが、日本の保険制度に追加に追加を重ねた流れで構築されているため、融通が利かない。 


 とりあえず探索者は一部の超高収入者を除いて、税的に凄まじく優遇されているため、文句を言う者が少ないというだけだ。

 

 最初に二億もの資金が手に入ったため、色々出来る! と甲田さんが喜んでいた。俺自身は装備買いたい! としか思って無かったけど。


 ということで。とりあえず、会社設立を行うことが決定した。もう、甲田さんとお漏らしと会計士さんに丸投げである。

 

 さらに、じいちゃんから(スゲー安く)長屋を購入することになった。うちの流派の師範代、高弟、食客の居住用に屋敷敷地内に建てられていた長屋。ここ数年ほとんど人が入居していなかったため、近日取り壊す予定だった。それをまるごと購入し、リフォーム&一部建て替えを行ったのだ。


「お前の元に集う者は、甲田くん以外にも確実に増えるはずじゃ。それは通常の会社ではない、運命のような、戦う者の絆で結ばれた関係となるだろう。そうなると、場が絶対に必要になる。ここを貴様らの梁山泊とするが良かろう!」


 なんだよ、それ。って感じで、じいちゃんが暴走した結果だ。


 それにしても梁山泊て。……まあ、好きなんだよね、じいちゃん。「水滸伝」。ああいうの。判るけどさ。実際自分が宗家だった時の御厨流の総本山がここだったわけで。当時はニギヤカだったみたいだから……。


 でもなぁ……「水滸伝」みたいにこの家の場所に集え! とかやるわけじゃないんだから、こんなに沢山の部屋のある社屋兼社員寮は必要無いと思うんだけどなぁ。……まあ、とんでもなくお安く譲ってもらっちゃったので文句は無いけどね。


 現在も長屋に住んでいたのは、師範代の山県さん、夜辺やべさん、高弟の三崎さん。三人はじいちゃん、ばあちゃん、俺と一緒の母屋に引っ越した。これは元々、部屋が空いているから引っ越しすると決まっていたのですんなりだった。


 御隠居様(じいちゃん)と同じ屋根の下など……と恐縮しきりだったが、母屋はいつでも風呂に入れるし、道場、駐車場も近いしでこの屋敷の中で一番暮らしやすいのだ。まあ、長屋がイマイチ遠かったってだけなんだけどね。


 甲田さんの知り合いの工務店さんにお願いして、これまた格安であっという間にリフォームが行われた。んーなんだろう。あれか、学校の部室楝的な社員寮的な……かな。


 コンクリ剥き出しの無骨な建物はそのまま、補強や耐震構造を組み込んで、さらに、床や壁も塗り直した。


 最終的には二階建ての無骨な外見の宿舎? の様な建物が完成していた。地下には本物の倉庫も作ってもらったしな。


 装備の確認とか、訓練なんかには道場があるし、スペースが必要なら、裏庭、裏山に荒れ地状態の開けた(石や岩は点在するが、サッカーフィールドくらい取れる)土地もある。演習とかすることがあったとしても十分だろう。


 20畳程度の食堂兼ミーティングルーム、業務用のキッチン。司令室(何それ?)、資料室、8畳のワンルーム(シャワー&トイレ付き)×五。6畳のワンルーム(シャワー&トイレ付き)が八。男女別の風呂(ここだけは我が儘を言って、母屋の温泉を流用させてもらった)、ランドリールームも用意した。全室空調と冷蔵庫を完備! うん。


 これは何なんだろうと……この建物はどうしたいんだろう……と思ったら、いつの間にか俺の部屋……社長室ならぬ、宗主室も用意されていた。


 要らないと言うか……母屋の自分の部屋との行き来が面倒なんですけど……。


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