0113:株式化
あの後、真白さんは母さんにボロボロにされたらしい。稽古という名のパワハラ道場で。
自分は別に大して疲労していない、負傷していないと思っていたのだが、母さんたちと合流したちょい後に、意識を失ってしまい、二日間寝込んでしまった。
寝ている間に、過去の、いや、前世の自分の事を思いだした様な気がしていたが……よく覚えていない。正直、ラルファ・マズルグントであった自分が、日本人、赤荻靖人として生を受けたのにも違和感を感じていたが、自分の親が、勇者様と大賢者様だっていう事実にも大いに戸惑った。どうしてそんなことになっているのか良く判らないが。
自分がラルファであることは……二人には言っていない。言えてない。二人の愛の結晶に入り込んだ異物かもしれない……という意識もある。
正直、二人に土足で入り込んだ気もして……嫌われてしまうのが怖い。
自分が幼少時から……手の掛からない子供を通してしまったのはそれが原因だ。
ああ、まあ、寝込んでいた時にその辺の事を思いだした様な気もしたけれど。起きたときにはあやふやで、既に良く判らなかった。
魔力を根こそぎ持って行かれた討伐隊のメンバーと、甲田さんは数日の意識喪失、記憶乖離で事無きを得た。症例、病名的には原因不明の気絶だ。魔力欠乏症だね。
迷宮に飲まれて(吸収されて)しまった人はいなかった。というか、
(肝心な所で申し訳ありませんでした。御守りせねばならない立場の私が……)
(それを言い始めたら、討伐隊総長も倒れてたんだから、どうにもならなかったよ)
( 巣鴨迷宮は当分閉鎖だそうです。ドラゴンに破壊された以上に、大きな新規階層が出現しているようで)
まあ、あの迷宮は今、絶賛「新生」中なのだ。火竜を倒した階層、えーと十七階層まではこれまで通り。そこから下が迷宮核によって大改装されているようだ。報告によれば、これまで歩いてきた通路が、いきなり消えたりするらしい。
何それ、怖い。文献でちらっと読んだ事があったけど本当にそうなるんだ。と、いうことで絶賛放置中とのこと。
火竜の売却は迷宮局、というか、母さんが所長を兼務する迷宮研究所に直接行った。ぶっちゃけ新規魔物のため、その価値を正確に算定することは不可能らしく、低めの査定となったそうだ。なので、素材研究を兼ねて竜の各部位から作成する竜装備のプロト版を無料で回してくれることになっている。うひゃ。ありがたい。
ギルド=迷宮局の正式名称は「独立公益財団法人 東京都迷宮公社 迷宮局」。その下部組織に当たるのが「公益財団法人 東京都迷宮公社 東京都迷宮研究所」だ。
まあ、ここは……東京都と名前が付いているでのイメージとしては小規模に思えるが、世界最先端の迷宮関連の研究組織で、全世界の諜報機関が24時間狙っていると言われている。名前は明かされているが、所在地も組織構成も一切明かされていない。
まあ、この研究所にだけドワーフが居て、鍛冶とか錬金術とかを行って、迷宮素材を加工して、様々な武器防具、魔導具を産み出している……と言われたら、そうだったのか……と納得してしまう。感じかな。そんなイメージで合っていると思う。
ここでまずは竜の素材を扱えるだけの設備の作成から入るそうだ。竜の素材は竜の素材を使った道具でないと加工出来ない。さらに一部は迷宮内で魔力を用いて行わないと厳しいと思う。
何だけど、母さんはやはりその辺のアドバイスをしないようだ。あくまで自力でやらせている。大変だなぁ。研究開発陣。二億の素材を丸投げって。俺ならオシッコちびる。
そう、二億。二億円だ。火竜のお値段は低めの査定だったそうだが、二億円ちょいとなった。うっはー。しかも。これ、税を抜いた分だ。
日本は探索者優遇税制度を導入している。生命に関わる危険と引き換えの職業のため、探索者の所得税はほとんど無いに等しい。だが、単価が二千万を超える取り引きの場合は別だ。約三割、税金で持って行かれてしまう。
つまり、迷宮局は約三億弱で火竜を購入したことになる。
……もう。高いのか安いのか分かんないな。
(まあ、とりあえず、これで、甲田さんに給料も払えるし)
(ありがとうこざいます、ですが、この資金を元に、まずは法人化を済ましてしまいましょう。細かい手続きは私が行いますが、
(……株式会社名ね?)
(そうとも言います)
ある程度稼いでいる探索者は、個人事業主から、クラン化、株式会社化、会社役員になる場合が多い。
会社にすると、生活で必要な資金のほとんどが経費で処理出来るのが大きいが、探索者優遇税制度のおかげでその部分だけなら、実はあまりおいしい訳では無い。
会社化の最大のメリットは社会保険、厚生年金の他に、探索者保険を経費化できるところにある。ってすげー世知辛い。
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