0112:ラルファ・マズルグント 10
いつしか。そう、旅を開始して数年は過ぎていたと思う。
勇者一行は、魔王の領域の最奥部、魔王城と呼ばれる山をまるごと要塞化した巨大な建造物に辿り着いた。というか、城というよりは山だ。魔王山峰だ。
まあ、そんな最前線、激戦区では純粋な戦闘力となることが出来ず、自分は補給物資を大量に運びながら、足手まといにならぬように動くのが精一杯だった。
最終的に。トンデモナイ量の魔物で溢れ返すその城に、勇者様のパーティが突入することになった。
何度か、制圧戦闘を繰り返していくらしい。本丸に辿着くにはしばらく掛かるということだった。
私たち……主要パーティメンバー以外の従者隊は、山の麓に結界で安全地帯を維持し続けて、キャンプを張り、その帰りを待つことになった。城の中は全体的に敵の平均レベルが高く、戦えない者には非常に過酷な戦場だった。
私の様な中途半端な戦力には、ここで、それ以外の者……行軍中に助け出した女子供や、移動手段である騎馬、飛竜などもいた、を守る役目を与えられたのだ。
とはいえ。最前線なのにお前のおかげで簡単に砦が構築できる、何よりも風呂に入れるのが最高だ。と、喜んでもらっている。
この頃には私の保存庫はかなりの大きさに拡張していた。
なので……非常識と呆れられることも多かったが……かなりの大きさの砦を分割して幾つかのブロックに分け、持ち運んでいたのだ。
何故か砦をそのまま収納する事はできなかった。大賢者様は魔力不足ではないか? と言っていたが……神様と同じくらい魔力がなければ、大きな建物は出し入れできないということか。まだまだ鍛錬が足りないか……。
まあ、ブロックに別けたおかげで、様々な設備、家具や装飾品もそのままで、瞬時に設置出来る。正直、ちょっと引くくらい便利だ。というか、これが魔王との戦争だからそれほどでもないが、人間同士の戦場に俺が行って、敵の砦の隣に、ほぼ瞬時に、巨大な砦を敵が攻め立てる直前に設置する……なんてことも可能なのだ。
……どう考えてもそれはズルイ。ヤバイ。
ぶっちゃけ、ここまで派手に勇者様と行動していると、当然だが、この砦のカラクリ、俺の能力は諸国の指導者に報告がいっているし、気付かれている。なので俺に対する引き抜き、勧誘も、もの凄く多い。
正直、私の身も心も勇者様御一行の意志と共にある。その気持ちは一切変わることは無かった。
それこそ、ここで魔王城に乗り込めずに悔しい思いをしていても、鍛錬、訓練は欠かしていない。この闘いで勇者様が勝利し、魔王という恐怖が消し去れたとしても……人間に欲がある以上、なんらかの闘いは終わらないだろう。勇者様の力を利用しようとする者は後を絶たないだろうし、何よりも勇者様は自分を利用しようとする者を徹底的に嫌う。
私、個人の考えだが、最終的には国を作るしか……勇者様の希望通りの全ての民が平等で幸せで豊かな生活を送ることが出来る様にするしか無いと思っている。そこにはかつて無い、魔王と闘う事以上の困難が待ち受けているのは間違いない。
だが、やりがいはある。勇者様の高邁な精神をどう実現していくか。そこに私の居場所は……多分、あると思う。
が。そんな日々の最中。
勇者様パーティが魔王城に乗り込んで数週間後。それまで体験したことのないレベルの衝撃が、麓のキャンプを襲った。
後で聞いたが、その激しさは元々あった山を三つくらい巻き込み、消失させ、巨大なクレーターを生み出したという。
世界中の大地が大きく揺れ、暗雲が立ち込め、暴風雨の嵐が五日間続き。殆どのモノが洗い流された。
魔王の領域から魔王城……いや、魔王山一帯が跡形もなく消滅した。大きく剔られた台地には、あっという間に水が流れ込み、巨大な湾を形成する。
当然だが、私の意識、肉体、そして仲間や砦を含めた全ては。衝撃を受けたその瞬間、その時点で跡形もなく消し飛んでいた。
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