0111:ラルファ・マズルグント 9
「空の術……空間系魔術を極めた者を、取るに足らない、恥ずかしい、騎士にあるまじきなどと、蔑んでいるとは本当に情けない」
「戦闘、いや、戦場の勝敗は大前提部分の七割、兵站で決定する。事前にどこから準備するかで話は変わるのだろうが、もしも、ほぼ同装備、ほぼ同数の軍隊がぶつかった場合、補給が行われる側と、度々途絶える側、戦えるのはどちらか、どんなバカでも判るハズだ」
「そもそもの話、優秀な空の魔術士が居れば一騎当千どころか、一騎当万に値する戦果が得られるのが、明白。当然なのだが。生かせていない時点で、この国の……いや、この世界の国家指導者、軍部指導者が無能だということが良く判るだろう」
「いいか? オマエらは理解出来なかったかもしれないが、この「完全に包囲され、籠城中の味方砦に補給を行い、継戦を維持した」ことがどれだけスゴイコトか。味方を助けたことも当然だが、敵に包囲されても継戦の維持される砦が存在することの、戦局に与える影響力がどれほどのものか」
「戦場で、蹂躙するための絶対必要兵数が大きく変更されるのだぞ? さらに現場の人間ですら。指導者と同じレベルで満足しているからか、理屈や道理が判らないままだ。それを上手く利用しようとも考えられない。この世界の軍属のレベルの低さが露悪している」
対魔王軍世界会議で、勇者が、忌憚なき意見をと何度も求められたため、発言したと言われている内容だ。
非常に辛辣な言葉が選ばれているため、当然、会議に出席したほとんどの王や指導者が勇者に嫌悪感を感じ、その後の勇者に対する扱い、対応に様々な影響を及ぼすことになった。
とはいえ。この言葉によって始めて、この世界では、荷駄部隊、補給、兵站……といった、現場へ輸送される物資が重要なのではないか? という疑問が「やっと」発生し、戦争をするという意識、価値観が改められ、広められたと言っていい。
育成に凄まじい時間が掛かる。さらにレベルアップの判りにくさから訓練が継続しにくい。だが、空の魔術を使う者たちの有用性が提唱され、認知されたと言って良いだろう。
父の汚名を晴らしてもらい、さらに祖父の仇も取ってもらった。つまりは。自分の一族郎党の無念を晴らしてもらった上に。空の術がどれだけ有用かと(これは別に私に対して……の話ではないのだが)、私自身のこれまでの半生まで肯定していただいたということになる。
これはもう、感謝しないではいられなかった。
当たり前だ。心酔、崇拝といってもいいかもしれない。ほぼ強引に……命じられてもいないのに、押しかけで勇者様の従者として、行動を共にすることを決断していた。
まあ、簡単に言えば。既に騎士団にいる意味を無くした私は、当然の様に退職し、爵位も妹に譲り、勇者様の役に立とうと後をつけ回した。
多分、少々どころか気持ちの悪い……ファン、いや信者だっただろう。行き過ぎた追っかけとでも言おうか。正直、勇者様が女性で無くて良かった。なんていうか、自分の気持ちを恋愛とかそれに連なる執着と判断されてしまったら、後々自分自身を恥じて、同行できなくなる所だった。
しつこく追い回してしまったが、最終的には許可を戴いたのだ。何しろ自分の能力は飛び抜けて「便利」だ。
勇者様の目的は一貫して魔王の討伐だ。
魔王は、意味なく無秩序で混沌とした世界を生み出そうとして画策しているらしい。反人類だけで無く、反生物……とでも言うのだろうか? 悪魔族だろうが、側近だろうが、本当は使い捨てなのだそうだ。戦い方はともかく、混沌による世界支配は普通に生きるものにとって非常に難易度が高い。
「我が主君、混沌は悪、害ではないのでしょうか?」
「混沌が悪いとは思わない。だが、それだけで塗りつぶされているのはダメだ。人は法と混沌。理性と本能。その両方を制するからこそ、自分たちよりも強い個体、魔物、竜にすら、滅ぼされなかったのだから」
時にはそんな疑問に答えをもらいながら、我々勇者軍は魔王軍と戦い続けた。
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