0106:ラルファ・マズルグント 4

 さらに三年が経過した。自分の保存庫はスクスクと成長し、現在では倉一つ程度の荷物を自由に出し入れ可能になっている。問題だった詠唱時間もこれまでの約1/3に圧縮出来るようになっていた。約十秒程度。まあ、未だ戦闘中に使うのは、厳しかったが。


 さらに、これまでの保存庫と違い、時間経過を停止させられる様になっていた。熱々のスープを収納すれば、ずっとそのまま。再度出せば、熱々で食べられる。食糧や生鮮食品等が「腐らない」のも非常に大きい。入れられる量が多くなってきているため、いつの間にかダメになっているパターンが多かったのだ。 


 一定期間で品物を全て取り出して、確認し、再収納しないと、自分で何が入っていたか認識出来なくなるのはマズいだろうと思っているのだが……まあ、時間のある時に……と後回しにしてしまうのはよろしくない。


 まあ、何にせよ、時間停止は素晴らしい機能だが、これらの事象派生から、空間魔術とは、空間を操るだけでなく、時間にも干渉出来るのではないか? という命題が提示された。これは未だに結論を得られず、研究を続けている。


 そしてこの頃になって……やっと。世間や術士たちの空術への認識は若干緩和した。俺の実証した結果を知り、空の属性持ちの弟子が三名、自分の下に付いたのだ。世間的には、まだ何者でもない私に弟子は重い。なので、形式上は師匠の弟子としてもらったのだが。

 

 保存庫以外の空属性の魔術の手掛かりはさっぱりだった。そもそも、関連する魔術書、古文書が見つからないのだ。需要がないので捨てられてしまったり、燃やされてしまった可能性は高い。とはいえ、遺跡や迷宮から新規で発掘されたという話も聞かないのが気に掛かる。


 私は各地、各国の名だたる図書館、許された貴族の書庫を訪れ、調査を続けていた。


 何か、少しでも手掛かりがあればいいのだが……。一切、欠片も見つから無かった。


 無い物をねだったところで仕方が無い。自分でも想像しながら有効に使用する手段がないか? と研究するしか無かった。本当の手探りで進めるにはかなり難しい案件なのは間違いないが。


 十七歳の年。相変わらず修行の日々だったが、魔王軍との戦いは激化しつつあった。


 そんな中、父が乱心し城で暴れ、陛下に刃を向けたという緊急伝令が届いた。陛下は無事であるものの、父の刃から守ろうとした祖父は、文字通り、盾となって死んだという。


 その父も祖父の最後の一撃で斬られ、死亡した。そうだ。


 信じられなかった。


 祖父の血を色濃く継いだ父は、剣の腕なら現在では王国一と言われていた。にも関わらず、剣武会等には一切参加せず、実力は実戦のみで示し続けてきた。いつも口数少なく、息子の私でも何を考えているか分からなかったが、家族を国を愛していたのは間違いない。


 さらに命を助けたとはいえ、祖父に大きすぎる褒美を与えた陛下にも感謝し、絶対の忠誠を捧げていた。忠臣。まさにそれであろう父が、乱心? しかも陛下に対して? 疑問しか頭に浮かばない。


 実際、マズルグントが反逆などと……疑っている貴族も多い。さらに何か理由があるのではないか? と日頃の忠誠を見せつけられている貴族達から大小強弱、様々な意見書が、殺到している様だ。魔術院からは父の魔術解剖を行わせて欲しいという……貴族としてあまり受け入れられない申し出もあった。


 魔術解剖は行われなかったが、とりあえず、父が操られていたのでは? という疑問は解消された。当時の現場の結界やそれを取り巻く環境のデータから、魅了等の呪文は使われていなかったことが判明した。しかし……そうなると、何故いきなり叛意を?  しかも直接陛下を? という疑問は残されたままだったが。


 魔王軍との戦いの最中でもあるということで、この話題は淡々と処理され、有耶無耶のまま放置される。


 王国一と言われていた忠臣の犯行、しかも陛下に向かってということで、完全に隔離され、最終的に情報封鎖されてしまった。ここに至っても、自分や祖母、母、妹、マズルグント家には何の沙汰も無かったのは、これまた、陛下の温情なのか?


 疑問は多かったが、その謎には、家族であっても深入り出来ず。私の真実を知りたいと思う気持ちは、日に日に大きくなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る