0104:ラルファ・マズルグント 2

 当初は当然、自分の力の無さに失望した。当たり前だ。騎士の家に生まれたにも関わらず、剣に関するギフトを何一つ所持していない。幼い頃から必死に剣を振り続けて来た以上、その結論は凄まじく心を斬り付けた。


 それこそ、ショックで何をして良いのか判らなくなった。それまで毎朝日課としていた素振りすら出来なくなってしまった。


 そんな明らかに落ち込み続けている私を心配したのだろう。


 一流の騎士は無理でも、一流の魔術士ならどうにかなるのではないかと父に言われ、思い直した。騎士修行時から、魔力が凄まじいと褒められていたのだ。

 騎士として活動するには、最低限の身体強化の術が使いこなせなければ難しい。全身鎧を着けて闊達に動き回るということは、そういうことなのだ。


 私の魔力であれば、魔術士としても一流になれますよ……と、おだてられて、良い気分になった記憶が残っている。


 アドバイスをもらったその日のうちに、父に「魔術士」に挑戦してみる……ということを伝えた。騎士は騎士学校という判りやすいシステムがあるが……魔術士になるには、学校が存在しないため、まずは優秀な師が必要となる。

 自分が魔術士としてそれなりに成功するか否や? は全ては師に掛かっているのだ。よほどの才能が無い限り、師を超えるコトは難しい。


 魔術士に対してなんのツテも無い自分は、父や祖父の「コネ」に頼るしかなかった。なので小細工無しで、真っ正面からお願いしたのだ。


 あまりにも明からさまな自分の行動や言い分に、当初はビックリして、キョトンとしていた父、そして祖父。


 が、「まあ、そういう事になるか」とほんのちょっとの時間で、親として血縁としてやるべきことを理解してくれた様だった。


 そしてコネを有効活用した情報収集や最大魔力が多いというアピールも手伝って、結果的に、幸運にも高位の魔術士に師事する事を許された。


 元宮廷魔術士長のカラドリウ・メヌエット師。弟子にして欲しいと国内外から希望者が殺到している御仁だ。


 最終的には、夢破れた哀れな息子にせめても、と、父が無理を言ったらしい。今思えばもの凄いムチャだ。感謝しか無い。


 前述したように魔術士の学校は存在しない。魔術士として大成出来るくらいのギフト、スキル、才能、ステータスを持つ者は少ないため、引退した高名な術士に師事することで、学校の代わりとなっている。


 早速、魔力の測定が行われた。これは、自分の予想通り、SSランク。膨大な魔力はそのまま、魔術士の力に直結する。


 兄弟子たちの期待を浴びたまま、属性測定を行う。



 部屋を支配する沈黙、静寂。


 魔術に疎い自分でも知っている事実が表示されていた。


 空魔術は別名:寝間着運び、と呼ばれている。使える呪文は保存庫という、生活魔術に近い、こことは別の空間にアイテムを収納する術のみ。多々ある魔術属性の中で、唯一「使えない」と言われている属性だ。


 正直、相次ぐ逆風、試練に、妙に冷静になっている自分がいた。


 普通に考えれば気が狂うレベルでもがく展開に、現実を上手く受け止められなかったのかもしれない。というか、少々おかしくなっていた……様な気もする。


 諦めるという決断が理解出来なかった私は、その日から狂った様に修行を開始した。


 あの時周りにいた兄弟子達は自分の存在を無かったことにしたようだ。


 ただ、師は。


 カラドリウ師は「それは良い」と、私の修行続行を認めてくれた。誰も相手にしてくれない代わりに、他に煩わされない時間。何よりも修行には持って来いだった。


 本当に何も考えず朝から晩まで、無心で魔力容量の拡張、属性や術固有で変化する魔力の識別、練り上げ等の変質。魔力操作の向上、属性強化の修行を繰り返していく。


 魔力枯渇状態でこれ以上は訓練も厳しい……と言う時は、自分では使えない他の属性の呪文も暗記していった。空の初期呪文などあっという間に覚えたからだ。保存庫以外、存在しないのだから当然だ。

 

 保存庫の術はどんなに極めても寝間着程度しかアイテムを収められない。大きさも、重さも、大したモノは入れられないと言われている様に、その通り、魔力がSSランクの自分でも、それは変わらなかった。


 これがもう少し大きく、重いモノを入れられれば話は変わるのだろうけど〜そんな気配は微塵も感じられなかった。勿体ないよなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る