0103:ラルファ・マズルグント 1

 私の祖父は王直下親衛隊隊長。父は近衛騎士団副長だった。祖父が非常に秀でた戦士、将で、戦場で大きく名を挙げた。


 特にデルベキオの撤退戦では大活躍だったそうだ。何度も聞かされた話だ。


 デルベキオ砦に残された兵は約50名。攻めよせるヒィナア帝国は大将軍グルレオ率いる2000の精鋭騎馬兵。数も兵の質もさらに言えば士気も大違いだ。鎧袖一触。そう思わない人はいない。

 そもそも雌雄を決するサンカーラ平原の大決戦で、我がルザ王国軍は惨敗したのだ。グルレオの策略にまんまとはまり、騎士団は疲弊し王国軍主力は撤退すら難しい状況に陥っていた。


 そこに風穴を開けたのが、祖父ランパード・マズルグントだった。祖父は砦の後詰めに残されたしがない部隊長だったが、敵の後背を確認するやいなや、真夜中にも関わらず奇襲を仕掛けた。豪雨だったのも幸いしたのだろう。帝国軍は大軍による援軍と勘違いし、大いに乱れた。そのすきに王国軍本隊、総指揮官であったレンザルオ皇太子が砦を経由して撤退に成功した。


 ここまででも万々歳の大手柄だ。たった50の兵で成し遂げられるような成果では無い。


 だが祖父はさらに砦に残り、敵を引きつける動きを繰り返した。幸いなことに砦は山上にあり、それほど広くは無いが、深い森に囲まれていたという。

 砦に至る道に穴を掘り、罠を仕掛ける。森の至る所に障害物を配置する。愚直にもそれを何度も繰り返したそうだ。

 それが結果的に騎馬2000、歩兵二万以上を引き止め、追撃を許さなかった。結果、王国軍の再編成の時間を稼ぎ、数度の交戦の後、最終的に対等な講和条約までこぎ着ける事になる。


 この結果。マズルグント家は男爵に叙爵された。士爵を飛ばしたその暴挙は、主にレンザルオ王の直言によって進められ、誰も表立って文句を言える者はいなかった。

 その後、祖父は王直下親衛隊で隊長を務め、その才を継いだ父、ランゴ・マズルグントも、近衛騎士団に席を置き、副長にまでなっている。


 自分、ラルファ・マズルグントも、そうなるのが当然の様に幼少期より剣を握った。毎日毎日、鍛錬を繰り返す。が。自分で思ったほどその技は磨かれなかった。


片手剣3

両手剣5

両手槍2

盾2

身体頑強2

持久維持1

乗馬3


 それは父も同じ思いだったようで、十歳、学校を選ぶ段階の測定結果から、跡取りとして同じ道を継ぐのは難しいと、ハッキリと伝えられた。


「この歳でここまで鍛えた事を、父は誇りに思う。お前の気持ちを最優先してやりたいのは山々だが」


 スキルの熟練度は稽古や訓練等、自分の行動、生活によって増加してゆく。広く多くの事に手を出すほど、極めるのに時間がかかると言われている。


 そう。自分のステータスには……ギフトが無かった。ステータス欄の表示には後天的に得られるスキルのみ。


 ギフトとは言葉通り、神からの贈り物と言われている。生まれた時から持ち得ている、天性の秀でた才能、能力を指す。その効能はスキルの数十倍とも言われている。


 祖父は「兵貴神速」、父は「謹厳実直」。さらに二人とも「剣神の加護」というギフトを所持していた。つまり、二人は二つのギフト持ち。古代語で二つの星を意味する「フゥーリエ」と呼ばれる。


 貴族だけでなく、人の上に立つほとんどの者が、フゥーリエ以上、二つ以上のギフトを所持しているといわれている。それくらい能力が必要だということでもあるが、単なる慣例でもある。暗黙の了解ってやつだ。


 ギフトは遺伝……血で伝わると言われている。実際、自分の知っている貴族は全員、ギフトを所有していた(フゥーリエは数名しかいなかったが)。


 一つとはいえ、ギフト持ちが中間管理職に就く。結果として貴族が組織の上層を〆ることになる。


 そんなこの国では、騎士になる子供の通う騎士学校、それ以外の通う普通の学校で進路が分かれる。


 騎士学校に通わなかった者は、後に剣士として成長しても、騎士に成れる可能性はほぼ無い。それこそ祖父くらい活躍してやっとだ。逆に騎士学校へ行って、挫折、または怪我等を理由に、一般的な職に就く者も多い。


 騎士学校の方が潰しは効くそんな考え方もあるだろう。


 が。うちは只でさえ二代前に大目立ちしたばかりだ。しかもバリバリの武闘派と思われている(実際にそうだ)。


 騎士学校へ行けば確実に、近衛入りしなければならない。これが難しいとなると、祖父や父を推挙した陛下に迷惑が掛かってしまう。このまま成長したとしたら。甘めに見ても実力で近衛に入るのは難しいだろう……と言われれば。そして自分でもそう思えば。


 身を引くしかなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る