0102:神殺しを殺すシステム

(くくく、ヤスチンの驚愕顔が! 姫様とパーティを組んで、さらにパーティ会話をした者だけが知る真実! 心根には実に愛が溢れているのだ! 漏れちゃうのだ! ニシシ)


 そ、そうなのか。って母さん、俯いてる……のは本当ってこと?


(会話の最後には大抵、想いが込められているよ、シシ。そうそう、号泣しながらあいつを倒すなんてなかなかやるのう、ヤスチンも)


(自滅ですよ。燃料切れ狙いじゃなきゃ戦えなかった。というかチンやめろ、弱シロ)


(弱くない)


(俺に負けたくせに)


(むぐう)


「ヤスチンは……いつも、心の中でそんなコト言ってたのか! なんか新鮮」


 マシロさんは母さんの専属護衛だ。主に迷宮外での。幾ら母さんが強くても、銃火器の力押し、特攻や人間爆弾といった非人道的攻撃が出来る時点で、万が一は有り得る。


 迷宮内では……無敵無双……尋常じゃないからね。うん。


「ん? 火竜か。それにしては見当たら……保存庫か?」


(うん、竜倒したら、レベルアップしたのか、使える様になった。出す?)


「後でな。まずは討伐隊、出張所の隊員、所員の救出が優先だ。ハク、状況は?」


「問題無いですよ~ユーゴ、来てるな? 状況は?」


「はっ、あっおっ、宗主、さ、ま、あ?」


 ヤツが倒されたのを感知して母さん達が行動開始。で。中で活動出来るまで迷宮の外で待っていたのか、マシロさんの部下のユーゴさんが遅れて飛んで来た。


 ちなみに、彼が急いでここまで来たのは、俺も判っていた。泣いて、意識を飛ばしかけていたとはいえ、一切合切感知出来なかった、この二人がおかしいだけか。やはり。


 で。ユーゴさんが為来りしきたりに従って俺に敬服、土下座しようとする。


「ああ、いいよ、ここは迷宮だ。外の為来りしきたりは通用しない。いいよね、宗主様?」


 その通りだ。なんかマシロさん、貴方に言われるとムカツクけど、その通りなので頷く。


「は、ははっ。い、一名、探索者らしき者が……」


(あ、それはうちのっていうか、俺の執事の甲田さんなので、よろしくお願いします)


「え? ヤスチン、執事なんて雇ったの?」


(向こうから来た)


「えっと、その探索者は、宗主の執事だってさ。同門?」


(うん、山県さんたちにしごかれてる)


「うわっ~現時点での生け贄かぁ。直弟子、しかも宗主門下だって」


「はっ」


 ユーゴさんが消えた。この辺はうちの人特有の動きなので判りやすい。


「ドラゴンだけなら問題無いと思っていたが、「新生」の最後の試練がアレだとはな」


(やはり、母さんも知りませんでしたか)


「ああ、恐れられていたが、迷宮の「新生」の詳細な記録はついぞ見かけることがなかった。最後の魔物であるドラゴンを討伐した中で最強の者。その者が一番恐れる、一番強いと思う相手が、迷宮内の魔力を吸い上げて具現化する、という事だな。記録や口伝でも情報が残っていないはずだ。全員死ぬのだから」


 確かに。弱い者は魔力を吸い上げられて倒れ、そのまま迷宮に吸収=死に、それに耐えられた者は、直接殺される。そもそもドラゴンだのヒュドラだの、デスナイトにリッチ……強敵を倒した所でフラグが立つのだ。後出しだよなぁ……。


(ひょっとして、俺一人だけで迷宮に入って火竜を倒した後に、何とか逃げれば、あいつ、倒さなくても良かったとかですか?)


「逃げられれば、な。多分。ヤツは放置しておくと迷宮を潰して外に出る。その後の魔力塊は……」


(出現させた者たち……いや、関係ない者たち、地上の世界を破壊して……魔力が切れるまで。で、消えると)


「ああ、そうだな。しかも多分、ヤツを倒しても経験値は入らん。強敵のくせにな」


(まあ、逃げられなかったですけど)


 そう言われてみれば。火竜を討伐した時は保存庫の成長を確信したし、レベルアップの実感があった。一気に10以上、上がったんじゃないかと思う。


 だが、火竜の何十倍も強かったと思われる黒き偽勇者は。泣いてて気づかなかったが、消失したにも関わらず、何一つ残さなかった。当然、レベルアップもしていないと思われ。


(ヤツは……は何のために?)


「多分だが。神殺しの芽を摘むシステムだな」


(神殺し)


「新生の記録に残っている「最後の魔物」は、ドラゴン等の災禍級魔物だ。その辺を倒せた者が順当に成長していったら。神殺しが生まれる可能性は零ではあるまい」


 最後の魔物を何度か倒して行くうちに……確かに。


「それを潰そうと仕込んだ神が居たとしても不思議ではない」


「姫様、さっきからわざと通常会話にしてるでしょ? も~恥ずかしがることないじゃーん」


(え? そうなの? 母さん、ただの恥ずかしがり屋さんなの? というか、まさかのツンデレ?)


「ぎゃはははははは! 息子にツンデレ言われてる! 姫様」


 よく見なくても母の顔は真っ赤だった。






 

 

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