0097:認知

 勇者ナオトは二振りの聖剣に認められた。


 太陽神を助け出すため、光の鍛冶御子ホーダーが鍛えた聖剣グロウパルラサンカは、両刃の片手剣。白き刃は常に薄らと輝いている。光の御子の作ということだけあって、魔剣に対して特別攻撃効果を所持しており、魔族にも非常に有効だ。

 片手剣の基礎、基本となったとも言われているデザインは、十字型ヒルト、クロスヒルトと呼ばれる柄で知られている。判りやすいのは何だろう? ネットなどで有名処としてはエクスカリバー(模造剣)だろうか? ああ、ヒルトっていうのは、西洋剣の鍔と柄と柄頭等、握り手側全般の事だ。


 今、ヤツの持っている剣は紛れもなくそれだ。違いは……刃から何から白い事で有名だった美しい剣姿。まあ今は、漆黒、吸い込まれる様な黒一色であることか。


 で、そして。もう一つの聖剣が、聖剣カリエスランズ。月之女神カリアが、禁断の恋、人との恋に堕ちた相手、セダン族の始祖王ファーラーン・オグワラに贈ったと言われている。


 聖剣や魔術は神や神話に関わるモノが多く、神同士の血縁、相性、愛憎等様々な、ゲスい逸話絡みに「多大」な影響を受けている。


 その最も大きなモノが、属性だ。火之神バリージアと水之神リースは、子供の頃に神の国の果物を取り合って以来、非常に仲が悪い。なのでその関係は相克。相容れない。


 ってまあ、主に魔術に影響の大きい話は置いておいて。


 聖剣カリエスランズは両手剣。本来はいわゆるグレートソードと呼ばれる長さ、大きさに分類される。全長は130㎝ちょい。重さは2㎏……くらいだっただろうか?


 が。ボロボロのため、現在では全長も短くなって、1m弱になっている。通常売られているロングソードよりも若干長くて、重い感じ……だろうか。まあ、だからこそ、素振り用に最適! と考えたんだけど。


 元々の色も、白き聖剣グロウに比べれば、鉄色というか、鉄の地金と変わらない色で地味だ。とはいえ、月鉄で出来た刃は、外気を浴びると淡く翠色に明滅発光する。


 ハズなんだけど。焦げ付き錆び付いたような汚れた黒錆色の外見からは、まさか聖剣とは本気で思えない。ヒルトの部分は変な突起として残ってるくらい。握り手はさすがにゴツゴツしていないが、その他は……。辛うじて剣の形には見える鉄の棒とでも言おうか。


 ただ妙に重心のバランスがしっくりくるので、素振りをして、自分の型を取り戻すのに最適だな……なんて思っていたら。


 そうか〜これ聖剣か〜。うんうん、これが聖剣なら、いくらでもやりようがあるよなぁ。


カゴゴゴゴゴ


 さっき、頭から振りかけ、「硬化」させた岩礫が大規模に吹き飛んだ。次の瞬間、黒いヤツが目の前に現れ、一瞬で状況把握。そのまま仕掛けてきた。


 穴から這い出てくるの、ちょい早くねーか? かなり深く穴を掘ったのに。 


ガッ!


 ナマクラロングソード(素振り用)は聖剣だった! 


 聖剣を手に入れたぞ! ててててー。


 とはいっても。それにしても。ぱっと見や手にした感触は、本当にただのボロイ棒でしかない。


 自分で言うのも何だけど、俺が「触れていた」のに聖剣とわからなかったってことは、独特の魔力も微弱すぎて、これが聖剣だとは世界で誰にも判らない(うちの親除く)。つまりそれはこのナマクラには聖剣としての力が全く残っていないということだ。


 つまり、剣としての性能は、本当に無い。切れ味ということであれば、俺のロングソード「切断」特価七万二千五百円の方がよっぽど斬れるんじゃないかな。


ガッガガガ!


 ああ、うん、でも。聖剣、本当に聖剣なんだぁ。大正解。黒いコピー品とはいえ、聖剣グロウパルラサンカの強烈な一撃を……受け流し、止めている。


 剣としての能力は無い。が。固い棒としての性能、いや、聖剣を模した力の直撃を受けて切断されない固い棒としての性能は、世界で唯一無二と言っていいだろう。


 って。


 バカかっ! 


 何でこれから頑張ろうとしている初心者探索者に、残骸とはいえ、マジモンの聖剣を渡すのか。しかもぞんざいな扱いで。正体を明かしもせず。これ、修復とかできないのだろうか? まあ、出来ないか。だから、俺にくれたんだろうし。


 俺が適当に捨てたり、迷宮に放置したらどうなっていたのか。


 ……ああ、まあ、それはないか……何となくだが、俺は、この素振り用の棒を気に入っていたのだ。だから捨てなかったし、保存庫にも入れてあった。理由は……ない。気づかないほど微弱な魔力に癒しを感じたか、直感で過去の記憶に懐かしさを感じていたのか?


 思い当たる一番の理由は……初期魔力のせいで保存庫のスペースが(思っていたよりも)最初からそこそこ大きかったから……かな。とりあえず、入れておいても気にならないくらいの余裕はあったからね。


 いやしかし。しかし、ねぇ。


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