0096:タイムリミット
ああ、時間が無い。ヤバイ。考えろ。他に、他に……。
他に何か……あ。
そういえば、保存庫の中に、ナ、父さんにもらった、刃がほとんど潰れちゃって、最初から鈍器としてしか使いようの無かった中古のロングソードが。金属の塊を棒のようにした、デロデロのヤツ。鍛冶屋に持っていくとメンテナンスするだけで、新品購入よりもお高く付いてしまうであろうブツがあるな。
あるな。
余りに酷い切れ味に、さっさと自分で剣を買おうと思わせてくれた逸品。新品購入後、もっぱら素振りに使ってたこれ。そういえば……。
あれ? そういえば……。この剣……。
何だ? 何でココにある?
確か……免許取得して、探索者になることを母さんに告げた数日後。「お父さんから」と渡されたんだったか。
そもそも、あの父が、俺用に買い物などするわけがない。純粋に、そんな暇はないハズだ。当然、ネット通販でポチった訳でもないだろう。うん。こんなボロボロのロングソード……。当然、自分が使えなくなったのでお下がりだ……ということになる。
というか、おい、ちょっと待て。
ひょっとして「お父さんから」ってパワーワードじゃね? そうなの? そうだよな。うっかりしてたよ。ボロボロな外見、切れ味に圧倒されて、早々に素振り用だなって判断したのは大いに間違っていたって事? いやーあの状況でなら、捨てちゃわなかったことを褒めてもらわないとだろ。
んーと、母さん? 言葉少ないタイプなのは重々承知ですが。さすがにこれは……シャレにならんというか。
「これは」元々父さんが「使っていた」剣で「もう使わなくなった」「使えなくなった」から、俺に「あげるよ」ということだったの? そういうことだったの?
そうだ! そうだな。うん。きっとそうだ! 何か繋がった。
か、母さん! そういうことは、ちゃんと言ってくれないと……。いや、無理か。効率第一で、必要と思わない事は一切しない言わない人だもんな。「お父さんから」だけで判れということか。
純粋に常に未来予想図を自分なりに数パターン予測して行動せよってことなのかな? そうか……。というか、昔、そんなような事を言われたことあるな……。これだから賢い人って……。
判るか!
さあ、こうなると大切なのは、父さんが「使っていた」という部分だ。
そう考えてみれば、ますます不思議が増加してくる。
何故、俺はこのボロボロのロングソードを捨てなかったのか。
素振り用にちょうど良かったというのは確かだが、そんなのは他で代用できる。買わなくても、じいちゃんに言えばいいだけだ。
実際、家の道場の地下倉庫には訓練用の武道具がズラッと棚に並んでいる。木刀が多いが、鉄心の入った木製の日本刀や西洋剣も多々あるし、穂先が木の槍、棒術用の各種棒。似たようなサイズの両手剣もあったハズだ。逆にあそこにそっと、そのまま放置してもおかしく無かったのだ。
それを……確か、あまり意識せずに、家で振り回して、当時はちょっと重いかな? とか思って、迷宮内での訓練に使おう……と出張所に持っていって、素振り用の鈍器として武器登録して、保存庫に入れて……今に至る。
何日か振ったけど、その後すぐにロングソード買ったから、しまいこんだままだったな。
でも面倒な手続きをちゃんとこなしてる。なんとなく。当たり前の様に。
保存庫から、問題のロングソードを取り出す。
ああ、やっぱり……よーく……深く、感知の照準を合わせてみれば。とんでもなく微弱ながらヤバイ魔力を感じる。しかもこの波動は……よかった。捨てちゃわなくて。迷宮にでも捨ててたら、ヤバかった。マジデ。自分で自分が許せなかったかもしれない。
俺は無意識のうちにこの微妙な魔力に……懐かしさを感じて、無意識のうちに大事にしてたのかもしれない。そう思おう。うん、思い込もう。俺の心の安定のために。ってこれも!
判るか!
久々に魔力を扱うことになった息子に無造作にこんなもの渡しやがって。こちとら迷宮初心者だぞ。魔力初心者、なめんな。くっそ。これが課題なんだとしたら、肉親からの……と考えれば、ちょっとやり過ぎですよ!
母さん。いくら邪神を叩き続けたことで、なまくら化したとはいえ。
これから迷宮に入ろうという免許取り立て10級探索者に、こんなモノをどうでも良い感じで、無造作に適当に渡すのはやめてください! しかも正体を明かさずに! 鞘なんかも無しで、ボロボロの布で包まれてたし。
これ、気付かずにさっさと処分してたらどうするつもりだったんですか! 取り返しが付かないことになるところだったでしょうが! もう!
人外の戦いで刃毀れ、傷付き、抉れ、装飾も潰れ、荘厳な造りは一切消え失せた。
聖剣カリエスランズ。
それがこのナマクラの元の名前だ。
……というか、父さん、母さん! 息子の新人デビューお祝いプレゼントの流れで、なんてモノを渡してるんですか!
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