0094:しつこく練習しておいてよかった
「
普通……魔術の中でも治癒系、回復系の魔術はソロ戦闘中に使える様なものじゃない。というか、ソロの時点で、魔術は非常に使いにくい。
同じ魔術士同士の戦いだとしても、若干でも片方が近接攻撃を習熟していたら、あっという間に決着が着く。普通は使えない。特に対戦相手が前衛の場合……しかも自分よりも格上の場合、勝てる確率など何万分の一と言った所か。
ということで、もっとも簡単で単純な治癒系の魔術である「治癒」は……探索者になってから、それはもう、毎日毎日、使用訓練を行い続けている。それこそ、幼少期に周囲からドン引かれた、俺、本来の特性「こいつ頭おかしいんじゃ無いか? ここまで鍛錬しなくても」スキルのせいで、毎日寝る前にとことんやり続けた。
そのおかげで、こんな風に戦闘中でも使いものになってる! こんなタイミングで酷使することになると思わなかったけど。出番はもうちょい後だと思ってたけど。うん、真面目に訓練してくれてありがとう。俺。
「
「治癒」の連打で吹き飛び千切れかけた指が、ムービーの逆再生のノリで、なんとか元に戻っていく。魔力がね。そこそこあるからこそ行える力技だ。
あっちの聖剣は、魔力で出来ている以上、本体が手を離し、切り離された事で……あっという間に消える。維持すんの大変みたいだな。まあなぁ~聖剣だしな。
そもそも、その本体もコスパ悪いべ? そこまで強大な力は、維持する魔力も膨大になる。迷宮全体から吸収したみたいだからかなりの集積量だったけど……既にかなり消費している。
俺の脅威、憧れは……再現するのにとんでもない労力がかかるということか。ふふん。悪い気分じゃないな。
それにしても……アレだけ「治癒」したのに、剣が刺さった方、右腕の傷が癒えるにはもう少しかかる。野郎、剣が消える前に傷口を大きく捻ってくれたようだ。まだ血が出ていた。くっ痛てて。鉄錆の臭い、血の臭いが妙に鼻に入る。
まあ、ヤツの手首も……まだキチンと回復していない。俺の知ってる勇者なら馬鹿げた回復能力であっという間に完治しているハズだ。つけ込む隙はある……かな?
取りあえず……俺の手の血は止まり始めた様だ。まあでも、まともにくっつくにはしばらく時間がかかるな、こりゃ。「治癒」「治癒」。
癒し系の呪文は、使う際に癒す部位、場所、さらにその構造などをキチンと指定して思い浮かべないと、ちゃんと治らない。左手の治療と右腕の治療、一緒にまとめてやれれば便利なのに。範囲指定するタイプの術の「
風や光の属性には幻術の様に視覚を騙す術が幾つも存在する。聖剣が増えたのもそれだと思ったんだよなぁ。なので放置した瞬間に囮! って決めつけて意識から離してしまった。
くそっ。そもそも、ヤツの実体は魔力だ。作ろうと思えば聖剣を何本も生み出すことが可能なのだ。ですよね。黒いんだから、気付かないと。
実際、本物の勇者も聖剣を増やしてたし。アレ……どうやってたんだろう? 幻覚とかじゃないんだよなぁ……。あっちこそ本物の実体を伴った残像? なんだろうか? 違うな。
あ、でもそう考えると、……俺の記憶に縛られているのはヤツの方か。さっき刺さった聖剣、刺さったまま、爆発させるとか、形状を変えるとかすれば右腕はあっさり無くなっていたハズだ。
だが聖剣は聖剣の形、性能のまま維持しようとしたので、すぐに魔力が足りなくなって消えた。
ある意味、俺の埒外の戦闘スタイルは仕掛けて来ないという事になる。自由度を狭めている……いや、そうでないと成立しないということか。誓約というか、縛りがあるんだろうな。このシステムの根幹に。
うん。それなら。
いつの間にか、癒えたのか、聖剣を両手に持っている。盾どこやったよ?
右、左、回し下蹴り。身体を回しつつ、右の聖剣が胴に向かう。
「盾」。重層。クッソ。まともな武器防具が欲しいな。ここでロングソードを出しても、一撃を止める事も出来ない。逆に折られたり切り落とされた破片が俺に向かう事を考えたら足手まといだ。
胴を聖剣が凪ぐ。ぎりぎりで避けた足めがけて、さらにもう一方の左の聖剣が襲いかかる。
ここまでは、それなりに自分の周囲……数メートルの位置に予測して「盾」を配置する事で、イロイロと妨害出来ていた。それが、さっきの攻防で全部剥がされている。もう、これまでとは比べものにならないくらいピンポイントで「盾」を操作することくらいしか、防御手段が無くなっている。
ちっ! そもそも武器を持っていない、素手で流す……のは「盾」があっても難易度が高いんだよな。相手が聖剣じゃなきゃ……側面を叩くんだけど。そもそも、今の実力差では致命的だ。
グバン
くそ。弾かれた。ちゃんと角度を付けて対処したのに。
ドン
さらに倍。というか、両手を弾かれてしまった。うっわ。この距離で。まさに持ってかれた!
大ダメージ確定ぃぃ! です!
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