0093:肉を切らせて
と思っていたら。
心を読まれたのか? 黒い戦士の手から離れて、背後に浮き上がった黒い聖剣グロウパルラサンカ、略して黒聖剣が……増えた。
というか、本当の聖剣と同じ性能は……ないよな? 無いと良いなぁ。色黒くて不気味だし。うん。どちらかと言えば魔剣に見えるし、そうなると性能は落ちるハズ。きっと。
一、二、三……幻映か。これは感知で実体を……なっ! 全部に実体が! なにこれ! 出した三本が包み込む様に襲いかかってくる。
そして、それとほぼ同時に。感知能力が剣に向いてる所に、本体が振りかぶりからの素人ケンカパンチッ!
俺は自分の身体に向けて、風の上級呪文「暴風裂」を緊急発動させた。
ぐっはぐっは。
危機一髪……全てを避けた。が。自分で自分にダメージ!
今のは……墓場で軽装フルの兄ちゃんが繰り出してきたのと同じようなパンチなわけだけど! わけだけど! スピード、質量、機動性が違い過ぎて、同じモノとは思えない。技否定、型否定、伝統の否定。努力の否定。死ねばいいのに。天才っていうのは非常に残酷だ。
ドバン
さらに、はじけ飛ぶ様に距離が開く。ゴロゴロと転がりはしなかったが、体中に細かい切り傷が走る。防護の術を抜けて、かなりのダメージを受けたが、あのケンカパンチの直撃を食らうより良い。
クソ。まさかこんな展開になるとは。いや、どうせ予想するなら、これくらい想定しておけってことなのか? 無茶言うな。ドラゴンだけでもイレギュラーなのに、それ以上が出てくるなんて、連戦で。ねぇ。これを狙ってやってるんだとしたら……確かに「迷宮、恐るべし」。
ただ。ただただ。判ったこともある。
ここまで耐えられた。と、いうことは、ヤツは本物より弱い。本物ならさっきの盾凪ぎで首を落とされていたはずだ。俺が強いからという可能性はない。何よりもまだまだ、魔力に慣れてないのだ。正直、さっきのドラゴン戦だって、ギリギリだったのだ。
ドラゴン倒して、レベルアップしていなかったら、今頃アッサリと沈没していたハズだ。
さらに、ヤツの魔力には限界がある。
膨大な魔力を吸収したとはいっても、これだけ強力な存在を具現化し、維持するには消費も凄まじいはずだ。実際、現れた時の威圧感は若干弱まっている。
良かったのは、常に魔力を吸収するタイプじゃなかったことだ。これで常時補給までされては勝ち目が全くなかった。まあ、さっき、迷宮内から、吸い取れるだけ吸い取ったからな。普通に考えれば必要ないのか。
ゴウ!
術士として……幾層もの術を重ねがけして、さらに、近接攻撃戦士と相対した場合に使える術を厳選して……さらに、いま現在の残存魔力量から計算して……と細かく設定して、コントロールしたいのだが。それをヤツが許してくれはしない。
「盾」の呪文といっても、イロイロだ。基本四属性全てに魔力で盾を形成して、自分の身を守る術が存在する。それこそ、俺は、水と土と風の三つの……板状の盾を産み出して、それを重ね合わせて盾としている。そうすることで強い盾となるからだ。土でハニカム構造を造り、その空間を水で埋める。さらに、その外側に風の膜を張る。ハイブリッド盾って感じ?
普通の……魔物の攻撃であれば、これで完全に受け止められる。というか、撃ち抜かれたことは無い。
まあでも。
さっきから、コイツを積層化して数枚重ねてるにも関わらず、ヤツの攻撃は俺を貫いてきている。なんてパワーだ。技術じゃ無い。純粋に持てる力が違い過ぎる。
振り抜かれた盾が風を巻き起こし、大きな塊となって俺の身体を翻弄する。くっ。身動きが。易々と接近を許してしまう。技とかじゃないからな。これ。足の運びとか、至って普通だし。畜生、懐かしいや。
ズ……
当たり前に。ごく普通に歩いて近付いてきた。極普通の身体に引き付けた構えから、繰り出される突き。そこにきているのに、判っているのに避けられない。完全に動きの拍子を読まれている。
聖剣が右腕を貫き、そのままベクトルを変えて、下へ向かう。当たり前の様に腕が地面に縫いつけられる。当然、膝を突いた格好になって……。
くっ。お、俺の世界のモリヤマ製、
「風塊」
左手でヤツの腕を優しく握り、その握りの中に風の塊を発生させる。俺の指も千切れそうにぶっ飛ぶが、あっちの手首も……ぶっ壊れたハズだ。イテテ。
何で肉弾戦をやってんだよ。俺。魔術士の戦い方じゃねーだろ。こうなった時点で魔術士なんて圧倒的な不利じゃねぇか?
手首から先を失ったヤツは、一気に距離を取った。お。ちょっと効いてくれたかな? 明らかに魔力が低下している。
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