0092:圧倒
くっ。余りにも懐かしく気高い外観に、涙腺が弛む。色が黒なのが幸いというか、違いを主張し続けてくれるので助かる。良かった。これ以上、勘違いすらしたくない。
……奥の見えない……なんていうか、黒い魔力の粒子が集まっているかのような存在からも分かる通り、アレは……敵だ。悪意、敵意の塊なのが手に取るように判る。俺が知りうる中で最も強く、最も戦いたくない……敵だ。
ふう……今の俺に、アレを打ち倒す事が出来るのだろうか? そもそも、抗う術があるのだろうか?
火竜なんて目じゃないくらいのプレッシャーに足が竦む。そして、それを見逃すような相手では……無かった。
音も無く踏み込まれた第一歩は。倒れ込む体を支える様に踏み出した第一歩。大股になると同時に、次の踏み込みが既に、あっちの剣の間合いだ。歩法なんて……お構いなしに、大地を破壊して踏み込んでくる。
足場が無ければ作ってしまえば良い。……聞いたことがあるな。そのセリフ。
それにしたって。一㎞弱を一気に詰めるなよ!
知ってるぞ、唯一の救いは、この変態的な移動術はリキャストが長い。連続してバンバン連発できる技じゃない。ちょっと良かった。
空間を歪めて生まれた近接戦闘の間合い。
片手剣を振り下ろすと同時に、盾でバッシュ。
ガッ!
くっ! バッシュした反動を利用した、横からのバッシュ。というか、なんで、今横に薙いだ盾が、逆側から攻撃を仕掛けてくる! どういう無茶だ。さらに言えば、バッシュというよりは、盾を鈍器代わりにして思い切り殴ったな! 今。
常識知らずな剣法、戦法もコピーされてるのか……。あ。剣を振上げる前に、盾を持つ手がちょい下がる癖まで……同じか。嬉しいような絶望というか。なんとも言えない感情がわき上がる。別モノ、別モノ。なんて考えてる余裕は正直、無い! 全く無い!
ゴブ……
ズザアザザアザアアアア
一撃が重い……。完全に胃液逆流コース! 酸っぱい! 防御系の呪文を重ね掛けしていたのに!
積層構造を教えてくれてありがとう!
って盾は……いつ手放した? あれ? 後方に落ちてる? 周辺情報の把握がさっぱりだ。認識している余裕が……。足りない。もの凄く足りない。
ゴッ……
くそっ! 圧倒的に速い。俺の感知能力が全く追いついていない。ヤツの行動、反応を逐一拾えてない……。とはいえ先読みを中心に、予測、予測でいかないと、大ダメージを受けてしまう。それこそ最低限、相手の攻撃のベクトルに合わせて自分の体を動かさないと。ちょっとでも逆に入るとカウンター気味で攻撃を受けることになる。そのダメージたるや計り知れない。
そんな事を考えながら次の手を……考えている間に、足を引っかけて、手放していた盾を拾われてしまった。くっ振り出しに戻るか……いや、数発入れられてるだけこっちの大負けか。
ビシュ!
なっ! あっぶな! 盾が……いつの間にか変わっていた。
いま、ヤツが持っているのはこれまた伝説の激レアな性能持ちのカイトシールド。名前は……忘れた。上下が尖っているデザインのヤツなのだが、それを縦にして突き刺してきた。なんという自由。しかも普通に剣で襲いかかっているその流れを一切無視しての行動。
そもそも盾をメインにして攻撃してくるなんて、ありえないというか、ムチャクチャすぎる。まあ、そうだ。ここは迷宮、文字通り何でもありの戦場なのだ。
というか、さっきの空間圧縮というか、あの距離の踏み込みの仕組みが判れば……リキャストが長いこと以外はさっぱりだからなぁ。どうやってやった?
あそこまででは無いにしても、いきなり現れては視界から消える。感知のスピードを上げろ……もっと速く!
研ぎ澄ませ……今までの調子の感知じゃ追いつかない。相手の初動前に合わせて、動きを先読みし、その場所から得られる空間の歪みを読み取れ、俺。
出来る出来ないじゃない、やらないと死ぬ。これ、俺知ってる。気を抜くと一瞬で持って行かれて、叩き込まれ、あっさり負けてしまうヤツだ。
諦めたいのなら……仕方ないが。俺はまだ、まだ。生きていたい。まだまだたくさんの経験を重ねていきたい。今、血反吐を吐いたとしても。
というか、あれ? そうか。聖剣……は、その力を十全に発揮できない……のか。盾での攻撃がやけに目立つ……と思っていたが。これまで、聖剣を聖剣らしく使った攻撃は……たった一度。あまりのパワーに持て余している?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます