0088:竜種

 さすがに自分の周囲に魔力の壁が生まれれば、気づいたようだ。紅いトカゲが紅い顔をこちらに向ける。


ガパッ


 顎が外れたかの様に口が開く。あ、そうか、コレもあったか。火焔弾。


だひゅっだひゅっだひゅっっ!


 と、連続して三発。


 焼けた空気の匂いと共に、かなり離れた場所を、火の玉、火球が通り過ぎていく。


 三発か~思ってたより、強いな。成長してるな~。この距離じゃそうそう当たらないが、熱く熱せられた空気が音を立て、波となって顔を煽る。熱い。


 ドラゴン。竜種と呼ばれる種族。言うまでもなく、魔物の中ではほぼほぼ、最強種だ。単体での戦闘能力でいえば、間違い無くモンスター最上位種に値するだろう。


 だが、竜種とは言っても、ピンからキリまで存在する。


 それこそ、大きく分ければ、竜と龍は違う。竜はドラゴンと呼ばれるタイプ。羽根の映えている恐竜系の姿をしている。西洋ファンタジー世界で登場するボスのアレである。


 龍は……長い髭が特徴の……外見は大蛇だ。蛇との違いは顔の部分が恐竜系なところ、小さめだが手足があるところ……だろうか? まあ、魔力で宙を移動するし、さらに若干毛が生えている。なので違いは一目瞭然だ。眷属が蛟とか蜃なんていう魔物で、水に関係していることが多く、水場の守護獣として地域に密着し、水神として崇められている場合も多い。


 で、神話級の竜や、神として扱われている様な龍は、人語を解しさらに人化できる者もいる。中には会話が成立する個体も存在するらしいが……大抵は意思疎通ならず、戦闘に突入するらしい。まあ、うん、俺もそんなヤツラとは正直、戦いたくない。レベルというか、格が違う。


 神竜殺しドラグスレイヤーと呼ばれたい気持ちなんてサラサラ無いし。


◆竜種

-竜

 ・神話級

 神竜、四竜、原初竜


 ・上位竜

 古代竜、光竜、闇竜


 ・中位竜

 属性竜(地水火風)←今回の竜はこのランクの火竜。


 ・下位竜

 端竜、小竜、飛竜


-龍

 ・神話級

 九頭神龍

 八大龍王

 。上位龍

 水龍、風龍、道龍、天龍


 ・上位眷属

 蛟龍、蜃、虹蜺


 知っている限りだとこんな感じだろうか。どちらかといえば、竜の方がメジャーで……悪くて、敵対するイメージで、龍の方は土地土地の守り神なイメージが強いかな。 


 で、今目の前にいる竜は……属性竜、その中の火竜だ。俺の知る限り、獰猛で暴れ始めると手が付けられない。大きな都市を潰滅状態になるまで破壊し尽くした……なんていう逸話も聞いたことがある。暴力の化身として上位の古代竜(確か、火炎竜だったかな?)となっても、ほぼ暴君であり続ける。

 自らの行動を阻害する者は全て敵とし、一度敵と認識した場合、それを灰燼と化すことしか考えない。暴力の化身とも言われる。

 自らの縄張りを持ち、そこに光り物や魔力の高い物を溜込むことでも有名だ。竜の中でも神話級はおとぎ話で人と会話し味方にもなったりしていたが~実際の所はよく知らんのよね。当然、会ったこと無いし。


 当然、属性竜、火竜の中でもレベルが存在し、主に体の大きさで判断する。アイツは……主体サイズの全長……10メートルちょい程度。翼の先端、尻尾まで入れると20メートル四方ってところか。あのサイズだと火焔弾は連続で二発くらいだと思ったんだが……。三発か。まあでも、うん、やることは変わらないな。


「泥化」「穴掘」「地盤沈下」「泥流」「風壁」「水膜」「粘膜」「疲労」「萎縮」「戒鎖」……キャンセルされにくいと言われていた遅延系弱体呪文を、素早く丁寧に、ひとつずつ掛けてゆく。地形に効果があるものは問題無いだろう。これが入らない、当たらないことはないと思いたいが、訓練の足りない呪文は、物理的にも平気で外れる。まあ、今回は高速で飛び回っているわけでもないし、図体もデカいので……大丈夫だと思うが。


 探索者になって二カ月。魔力との親和性を高めようと、なるべく術の鍛錬を行って来たが、こんなに早くフルセットで使うはめになるとは。まだ、一度も使用していない呪文だってあるのに。


 良かった。全部キチンと覚えていたし……発動し、命中する。


「さすがにもう、動けないよな」


 火竜は既に俺の術に囚われている。若干末端部分は動いている様だが、距離を詰めることは出来ていない。うん、予定通り。こういう所だぞ? 魔術士に準備をさせてはいけないっていうのは。


 遅延系の術は……長くても十分程度で切れてしまう。しかも同時にいくつも展開しているので、魔力消費も激しい。術を維持していくのなら、通常一人でかけられる呪文は最大でも二つくらいのハズだ。無駄に魔力が多くて良かった。


 術の発動をずらして発動したので、ひとつ切れるたびにもうひとつ、さらにひとつ……と、重複させていくつもり……だが。


 だが。その前に決着を付ける。




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