0087:魔術士のやり方

 まず、魔術士が単独で仕掛ける場合は。


 第一に行動阻害、遅延、足枷となる術。どんなに一撃に自信があったとしても、いきなり大技は怖すぎる。大技、大きな魔術であればあるほど、詠唱中に魔力の動きが発生する。運が良ければ……いや、多分無い。相手の魔力感知能力が高ければ高いほど……まあ、アイツには、当然の様に気付かれてしまう。


 ドラゴンクラスの魔物になると、停止系、完全拘束系の術は効果が低い。というか、魔術抵抗力、魔術防御力も高いので……多分、数秒で解除されるだろう。


 完全拘束系は「物理結界」や「停止」など、相手を完全に行動不可にさせる。こっちのレベルが二倍近く上とかであれば超効果的……なのだが。同レベルだと効果は40%程度。現状、俺のレベルの方が低いだろうから、そうなると10%位か。かけるだけ無駄だ。


「鋼鎖」という拘束系の地の術は通常、三分程度、敵を拘束する。同レベルの敵には一分ちょい、俺があのドラゴンに使ったら、十五秒といった所だろうか。


 しかも、術自体がキャンセルされる可能性も高い。魔力をこの術特化で練り上げれば拘束時間は伸ばせるかもしれないが、キャンセルの確率を下げる効果は伸びなかったはずだ。


 そこで行動阻害属性に最適化した魔力を用意する。


 遅延系一択だ。ヤツの周辺にも作用する地形効果系の術を何重にもかけていけば……さらに複数の術を重ね掛けすれば、さすがに術で攻撃するために必要な時間……数分は、動きが止まる。ハズだ。

 

 一通り魔力の練りが終わった所で、深呼吸だ。ここから先は、詠唱勝負となる。動きを止められたヤツは竜魔術を使って来る。ブレス八割、魔術二割。ほぼ無詠唱で連打されるに近い。


 完全拘束系と同じく、能力低下系の術も使わない。抵抗されるだろうしさらに、入っても数秒しか効果が持たないのであれば意味が無い。今回は諦める。


 というか、能力低下系の術は敵対心を集めてくれる盾役がいて、通用する一撃を放てる近接アタッカーがいて、回復役がいて。戦闘を長時間掛けて、安全、安定して勝つ際に始めて有用に使えると思っていい。


 竜魔術も、ブレスも。現時点の俺では直撃を受ければ、防ぎようがない。致命傷を受ける可能性も高い。


 そこでビビったら確実に負ける。手も脚も出ない状態でタコ殴りで、殴りきってぶち殺さなければ、こちらが一瞬でやられる。たった一人で竜退治をする……ということはそういうことだ。


 ああ、そうか。取りあえず、周りからは見えない様にしておこうか。正直、今回のを見てしまっても後を追おうとも思えないだろうけど……訓練するときに、毎回、絶望感が半端ないだろうから。そして、いきなり邪道なやり方を目の前に提示されても、困っちゃうだろうし。


 魔力を練った残りで、この辺一帯に暴風による塀を巡らせる。まあ、意味的には池袋でヨスヤ兄を治療した時に使った、光属性の膜と一緒だ。


 正直、そこまでの余裕は無い。あの時はメインで使う術が少なかったので、目眩ましとしてわかりやすく、強力に発光させた灯りの術を使った。今回はもう、魔力に任せてただただ奔流としてうねらせる。灰色な何かが、暴れている様に見えるハズだ。


 まあ、外側からは乱気流とか竜巻の様な、帯、障害、壁に見えるだろう。というか、これが何かも分からない……か。うん、見てんだろうしなぁ。みんな。うーん。困る……ものでもないんだろうけど、刺激が強すぎると思うんだよな……まだ。


 正直、俺は今後の為にも魔術について教えるのはイイと思う。というか、母さんに確認してからになるんだろうけど。あの人厳しいからなぁ。前にモロモロの難易度下げると成長も薄くなるって、言ってた気もするし。


 でも、迷宮出現から十三年、未だに魔力や魔術についてキチンとした情報分析が出来てないのは問題だと思うんだよね。ヒントは山ほどあるとはいえ、「気付き」「閃き」に関しては長年の積み重ねの結果のブレイクスルーなんだからさ。


 数百年前以来の科学主義社会において、たった十数年で魔力という不思議力について、理論立てて法則化、学問とするのは厳しいでしょ。

 何よりも魔力は迷宮にしか存在しない以上、探索者以外に検証対象者が存在しないわけで。その探索者の中でも、魔術が「使える」レベルで魔力を持つ者は一割を切る。さらにその中で魔術を極めようなんて物好きは……本当に少ないハズで。


 実験して検証して……っていう繰り返しが大事な学問において、絶対数が少ないことで実証できる機会が少ないっていうのは致命的だもんな~。


 そりゃ研究が進まないワケだ。


 まあ魔術士が話題にならないのは、スゴい所をアピール出来てないのも有るけどね。戦闘動画とかほぼ露出してないし。迷宮内で動画とか撮れないから。機材壊れるし。


 その辺がクリア出来れば、見た目的に派手だし、タメはデカいけど効果もデカいしで、憧れる子供、いや、大人も増えるよな。やろうと思えば花火的な使い方もできるしね。将来なりたい職業で魔術士ランクインとかすぐ来るだろう。


 まあ、それは後でいい。うん。


「もう、おせぇ」


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