0081:告白
(
甲田さんの表情はやはり、晴れない。スッキリしないか。そりゃそうか。
(ああ、うん、んじゃ、ちょっと安心出来る話を)
(はい?)
(あのさ、俺さ、言ってなかったけど。拳法家でも格闘家でも、暗殺者でも、さらに言えば剣士でも……ないんだよね)
(は? あの、家の、御厨流の跡取りの技を……あ、あの体捌き、剣捌き……で、ですか?)
(んーと、これまでの迷宮活動は……魔力に体を慣らすためのリハビリ……かな。剣を振ってたのは特に。ロングソードを選んでいたのも、昔振った事があったからってだけだし。あと、魔術も段階的に使って、体を魔力に馴らしていかないと、体調不良になるし、変に疲れちゃう……最悪気を失うこともあるからね)
(で、では武器は……な、何を)
(んーんとね、あのね、俺、前衛じゃなくて後衛。純粋な魔術士なんだよね)
何かが抜け落ちた顔……というのはこういう顔の事を言うのだろう。甲田さんの顔色が……凄い勢いで白くなっていっている気がする。
(……はっあああああ!? マジで?)
あ! 甲田さんから敬語消えた!
(うん、マジ。だからさ、こちらから仕掛けられる今回みたいなケースは戦闘の中で得意なんだよね。魔術士に準備をさせちゃダメだって所を見せてあげるよ)
(……か、かしこ、畏まりました……お任せいたします。早々に下がらせていただきます)
あ……取り戻した。さすが。はやい。最大速度で離れて行った……。
うん、ごめん。甲田さん、泣いた? 泣いちゃった? ちょっと忘れてたや。俺、ロングソートでやっつけてるからね……最初に。ショックかも。確かに。すまん。
で。目の前、遠く見えているのは……赤きドラゴン。火竜、ファイアードラゴンとか、レッドドラゴンなんて呼ばれるであろうタイプだ。色からしてアレだけど、火山とか熱い場所が大好き。ちゅーか、うん、イイ感じで良いロケーションで眠り込んでいる。討伐隊の精鋭パーティと戦って……まあ、かすり傷程度とはいえ、無傷とはいかなかったのだろう。ああして自分に適した属性の土地で休息すると、体力、魔力だけでなく、傷なんかも癒える。属性持ちの魔物によくある特性だ。
自分の属性に合っているこの階層。しかも火山口に近い場所にある大きな洞窟。その真ん中にある浅めのクレーターにすっぽりと収まる様にお休み中。ということで、色を含めて、火属性の竜。ファイナルアンサー、決定ってことで。
火属性の竜には当然だけど、火属性の魔術は一切通用しない。それこそ、上級、最上級の呪文だとしても「なんか熱いなぁ」っていうレベルで耐えられてしまう。その分、氷属性の術にはめっぽう弱い。圧倒的に弱い。俺がソロで挑む気になったのはそういうことだ。
18階層、ヤツのいる周辺は、ドラゴン自体を恐れて、他の雑魚魔物はほぼいなくなっている。それでも、地蔵火山の在来魔物はファイヤーリーチ、ファイヤースライム、ファイヤードレイク、ファイヤークロウラー、ファイヤーウルフ、ファイヤーバードと、ファイアー付けとけば何でもいいでしょ的なヤツらがてんこ盛りだ。
そんな迷宮に散った大量の魔物を潰して行く面倒くさい仕事をするのが、甲田さんと討伐隊の精鋭たちである。まあ、甲田さんには比較的近めの場所で待機、警戒。俺の護衛も兼ねてもらうことにした。でないと、いつまでも盾になりますと五月蠅いんだもの。
では。
さあ、やっていこうか。魔術は……いや。この手の、大規模だけど、単体敵の討伐は……正直、力押しだ。ヤツの魔力と俺の魔力。どちらが多いか、どちらの質が高いか、力比べである。
俺のレベルが低いので魔力量で力押しは厳しい。となると。技術、準備勝負……だな。魔力を練り込むことになる。これを……意識の外、世界の外にいくつどれだけ留めておけるのか。それが勝負の決め手になる。んーあの火トカゲがどれくらいの強さか、にもよるんだけどなぁ。
外見からするとまだ、それほど歳を取ってない、生まれてそれほど時間経過していない若造……といったところだろうか? というか、暴れなければ別に放置でもいいんだけど、ここで休憩して、傷が癒えたら。確実にまた、上に向かうだろう。
ゲートをどうやって突破しているのか、その瞬間とかみたいものだけど、最初はかなり深層で発見されたみたいだから、実際にここまで来ちゃってるもんな。その辺はきっと討伐隊の斥候とかが詳細記録を取ってるだろうからいいや。
最終的には迷宮の外に出て暴れる……ということになるからね。
その魔物自体の魔力次第だけど……空を飛ぶ魔物が迷宮外に出ると……ねぇ。もの凄く面倒なんだよね。
さらに迷宮外でも魔物には銃火器がほぼ通用しないので、有効な攻撃は弓なんだけど、能力強化が図れる迷宮内であればともかく、外での弓はそこまで強く無い。なので、罠を仕掛けて、地に落として近接攻撃となるんだけど……。
いくら下っ端とはいえ、ドラゴンだと上手くいかないだろうなぁ。それで、火でもぶわーっと吐かれた日にゃぁ……ねぇ。
まあ、ここでこうして魔力を練り込んでいるにも関わらず、のうのうと寝ているお前が悪い。一方的にやらせてもらうぞ。
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