0080:お出かけドラゴン

「人語を解さないドラゴンなど、図体の大きいトカゲと一緒だ」


 と、父さんが言っていた。当時はそんなムチャな、バカな……と思ったモノだが、今、こうして冷静に対策を積み重ねていくと、確かに大きいトカゲと戦うのだな、と、思えてくる。但し空を飛ぶけど。火も吐くけど。多分。


(さすがに、この展開は……)


(ない?)


(ええ。予測しろと言われても、有り得なさすぎて。ちょっと笑えてきています)


(それは重畳。ドキドキだね! 俺も!)


 ドラゴンは現在、18階層、地蔵火山にいる。暖かい……というか、熱い階層だ。それまでは徐々に上に移動してきていたのに、既に二日間、火山で一番大きい火口脇の洞窟から動かないらしい。多分、暖かいのがお気に入りなんだな。


 所詮、トカゲ。爬虫類。自分の属性にあわせた地形効果のある場所が大好きなんだよなぁ。変温動物ってヤツだよね。……ってまあ、魔物、魔力を持つ生き物だから、地球の生物の法則は当てはまらないんだけど。根本的にはそういう修正があるのは確か……かな。

 

 迷宮の各階層はゲートで繋がっている。これは地上にある大門と同じ様なモノで、腕輪が無くても通過出来る。正式名、転移ゲートの通り、階段とかではなく、ドコで○ドア的なゲートを通過しようとすると瞬間移動、次の階層に転移する。前に尾行してきた影の探索者を放り投げておいたのはゲート部屋といって、各階層の間に存在している。

 外見は……大抵が10畳程度の石室。その中央にゲートと呼ばれる板状のオブジェ(モノリス)が浮いている。迷宮によっては木の板で出来た部屋や、煉瓦で出来た部屋、コンクリ打ちっぱなし的なオシャレな部屋なんてのもあるという。


 繋がりのイメージ的には……


ゲート部屋始端

 ↓

第○階層

 ↓

ゲート部屋終端

 ↓転移? 瞬間移動? ワープ?

ゲート部屋始端

 ↓

第×階層

 ↓

ゲート部屋終端(以下同じ


 ゲートに触れると思い浮かぶ項目はこんな感じ(例えば第四階層を踏破した場所にあるゲートの場合)。


★次の階層(第五回層)へ進む

★通過してきた階層へ戻る

 →第四階層始端(第四階層の最初のゲートへ)

 →第三階層終端

 →第二階層終端

 →第一階層終端


 次の階層へ進んだ先にある第五階層最初のゲートでは~

★通過してきた階層へ戻る

 →第四階層終端

 →第三階層終端

 →第二階層終端

 →第一階層終端


 これしか選択できない。


 このシステム、完璧にするのなら、始端、終端に何処からでも飛べるようになるといいんだけど、そうは問屋がイカのきんたまってヤツらしい。

 んと、判りにくいだろうから説明すると、現時点で、第五階層の終端(のゲート部屋)にいたとして。第二階層の始端(のゲート部屋)には直接転移は出来ない。一度、第二階層の終端へ移動して、そこでもう一度ゲートに触り、第二階層の始端へ移動するか……第一階層終端に移動して、次の階層へ進むを選ぶことになる。


 イロイロ面倒くさいけど、これはどうにもいじれない変更出来ないんだそうだ。ああ、これもお漏らしに聞きたいな。最新の研究ではどういうことになっているんだろうか?


 一度使った探索者なら判っていると想うが、ゲームのように、こうしてハッキリと文字が表示されるわけじゃない。なんとなくそういう感じっていうイメージが浮かぶってだけだ。


 迷宮は下の階層に、こんな感じで繋がっている。完全に安全といえるか完璧な検証は為されていないが、ゲート部屋に魔物は入ってこない(と言われていた)。


 魔物は転移出来ない(と言われていた)。


 まあ、とにかく。ゲート部屋を介さなければ階層間の移動はできないのだ。魔物が階層毎に区分けされているのは環境以外でも、物理的に上下階での行き来が出来なくて、混ざらないからというのもあるだろう。


 が。今回、ドラゴンは階層を超えてきている。ゲートを部屋ごと破壊しながら……らしい。なんだそれ。どういうことなんだろうか? 


 まあ、いいか。


(よくありません……ほ、本当に我が主君マイロード、お一人で?)


(一人じゃないでしょ。確かに、ドラゴンに対峙するのは俺一人だけど……少なくとも、作戦的には俺一人じゃどうにもならない)


(ですが……)


(だから。言ってたじゃん。「氷帝」の人に。足手まといなのか? って、んで、そうって答えちゃったし)


(……自分が……足手まといなのは判っていますが……申し訳ありません……もう、言わないようにいたします。畏まりました。では私は、予定通り……討伐隊の面々と合流いたします。あのメンバーであれば……この階層の雑魚なら、こちらに被害無く討伐が可能かと思われますが。戦力は多い方がよろしいでしょう)


(うん、すまないっすね)


 とはいえ、まだ心配そうだ。ちゅーかまーねー。そうだよねー。ドラゴン、竜といえば、迷宮界待望の大ボス級の魔物……さらに強大凶悪なスペックで~予想通りだったということなんだけど。


 実際に報告でも、あっという間に討伐隊の精鋭が瞬殺されたというし。


 討伐隊の精鋭といえば、世界の精鋭。腕輪を付けて探索者として活動しているとレベルが上がる……ということを考えると、迷宮内世界最強の暴力装置、軍隊、部隊が迷宮局の討伐隊だ。


 米国の特殊部隊など、精鋭を指す部隊名は昔からよく登場するが、討伐隊の隊員は人間自体、個体としての強さが段違いすぎる。


 討伐隊の隊員は、自衛隊や警察からの選抜された武術エリート中心で構成されている。そんなヤツラが迷宮発生時の動乱、最も早い時期、探索者という制度が確立する前から実験的に「腕輪」を付けて魔物と闘い続けてきたのだ。

 ランキングのように、探索者の中での強さを競う流れを良く目にするが、そこで必ず出てくる意見が「強さなら討伐隊最強が世界最強」というヤツだ。現実問題として、無類の力を手に入れた探索者を取り締まることも出来る立場の討伐隊は、迷宮社会の規範を守護する暴力装置でもあるのだ。


 そんな人たちが一切歯が立たなかった相手……にたった1人でというのだから、まあ、心配だよね。


 甲田さんがなんでそこまで俺を心配、そして入れ込むのかは……未だに良く判らないけど。既に利用価値があるからという意味では、的場さんを癒やしている時点で終着点を迎えているワケだし。


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