0077:淀む会議

 何てことを考えていたら。いつの間にか到着した……巣鴨迷宮。運転手付き個人送迎って……この年齢から慣れちゃったら……堕落しそう。


 迷宮局出張所ギルドの大会議室は非常に重い……どんよりとした空気で満たされていた。二十名くらいだろうか。まあ、歴戦の猛者共が詰まっている。


 案内されて後ろの椅子、しかも隅に座る。いやいや、これ、途中出席していい会議なのかよ、なんか視線集まってるし。


「さあ、真打ちがお出ましということで、本番です。どう対策するか。本格的に進めましょうか」


 三番隊隊長の菅野さんの位置に、ものすごく普通のハゲオヤジ……こと、討伐隊監査役「不知火」本田健二(単なる素人、探索者オタクなので呼び捨てだ。心の中だけだし)が座っている。


 この人が進行役か。知ってる。迷宮局討伐隊が何らかの発表をする時には、彼が記者会見とかしてたから。外見で人を判断しちゃダメだよって代表だよね。確か。


 うーんと、そうか。パッと見た感じ、会議を進めそうな常識人っぽい役ができるのはこの人くらいか。この会議室にいる人の中で。うんうん。


我が主君マイロードは、この様な場で話をすることを苦手としています。幸い、パーティ会話を使用すれば私と迅速な意思疎通は可能です。代弁者として発言する事をお許し頂きたい」


 隣の甲田さんが発言した。


「君は?」


「三級探索者の甲田です。現在は様々な事情を経て、赤荻靖人様の執事を生業にしております」


我が主君マイロード……か」


 総長を挟んで「不知火」の反対側。たった一言で場の温度が数度下がる。あ、これは比喩ではなく、現実に、だ。温度がぐんぐんと……下がっていく。まるでクーラーを最強モードにしたかのような急激な温度変化効果。すげー。リアルだと初めて見たな。これが……噂の。


「氷帝」。


 討伐隊副長、御影啓一。「鋭利な刃物の様な」という表現はこの男の為にあったのか、というくらい、尖っている。目線で魔物も女も殺すとまで言われている美麗な、危険な容姿。総長、EX立花に次いで……いや、世界的にはオタク層の支持によって「氷帝」の方が有名かもしれない。


「本来なら、赤荻くん位の症状……いや、病状か? であれば、こちらが真摯に対応すればキチンと聞き取れると思うのだが。先日は暴言を吐いた者がいたな。ここで正式に謝罪しよう。言った者は君の症状を知らなかった様だ。すまなかった。それを踏まえた上で。今日は何よりも時間が惜しい。こちらこそ代弁をお願いしたい」


 おお~一見まともだ。


(いえ……彼が……間違いなく世界で一番、最も総長に入れ込んでいます。気は許せません)


(うん。なんていうか……狂信者の匂いがするよ)


(はっ。その通りで)


「よろしくお願い致します」


 甲田さんが心の声を一切顔に出さず、頭を下げる。さすが。


 既に……まあ、ここ数日、議論を重ねてきたのであろう。「氷帝」以外の全員が、疲れた顔をしている。


「本題の前に。まず先に……あー赤荻くんの能力、いや、君は何か重要な要素を開示する必要が有るのではないか? という意見があるのだが。どうだろうか?」


 ハゲオヤジが笑顔でふざけたことを言う。


 おうおう、そう来たか。ああ、まあね。何かズルでもしていなければ、おかしい、さらに、そのズルは社会的、人類の進歩のために、隠しておくとは何事かというモノではないか? と、良心に訴えて来ているワケな。


「迷宮での危機は、人類の危機である。何かあるなら提示したまえ」


 さみーよ、「氷帝」。


「それは脅迫ですか?」


「なんということを。我々が脅迫など。全てにおいて任意だ。協力要請となる」


「ならば、当然、ノーです。何処に自分から武器を投げ捨てる探索者がいるのですか?」


「そういうことではないのだ!」


 だから、冷たいって。


「既に討伐隊精鋭が壊滅状態にある。会議で戦略を検討したが、これぞという有効な手段が見つからないのだ。被害を減らす可能性が有るのなら、藁にもすがる所存である。この通りだ。お教え願えないか?」


 総長が椅子に座ったままとはいえ、頭を下げた。これは。多分、俺の思うより安くない。だが。


 甲田さんも、どうしますか? といった顔でこちらを見る。


 ちゅーかさ、討伐隊、根本的にクソじゃない? 組織として。成立してるの? これ。まずは呼び出して、実力判定、練習試合、稽古? といいう名の「かわいがり」をして。しかも二連戦。そして、今度は会議室で圧迫した上での脅迫。笑。


 時系列整理してタイムライン整理したら、アホほど笑える展開じゃない? ちょっとまってー。こんなん言うこと聞くはず無いですよね。


「無理ですね」


「な!」


「貴様!」


 ちっ。「氷帝」! 洩れてるよ! 洩れてる! 冷たいって! 言わないだけで、全員、総長だって寒がってるよ!


「その代わり……ではないですが、提案が有ります」


 甲田さん、お疲れ様。この冷気の中で噛まずに発言できたの、スゴいと思う。

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