0072:お漏らし教室②

 迷宮局運営部魔導具工房……はそこだけ異世界とネットで言われている。


 迷宮発生以後、あり得ないスピードで各種魔導具を開発し、未だに疾走し続けている。うーんと、確か、迷宮発生後たった1年、DAC1年末には探索者腕輪が完成していたのが良い例だろう。


「そもそも、親日で各種同盟を結んでいた友好国には、腕輪を輸出するつもりだったらしいです。こちらも当時の外相の手帳メモにありました。で、実際譲渡だか、輸出だかしようとして……探索者腕輪を持って行って実験してみたんだけど……無理だったと。これは迷宮局議事録に明記されてます」


「その辺、確かに……そう言われていますが、議事録ですか……第一資料がどこにあるのか調べようが無かったりします。ああ、貴方に家庭教師をお願いする価値はありそうですね」


 ぬお。甲田さんにお墨付きを。まあ、でも、そうだな。お漏らしの言う事はかなりオリジナル要素、自分の足で調べた内容が含まれていて、面白い。ちゅーか、迷宮に関する諸情報のオリジナルソースをちゃんと確認出来てるのスゴいな。


「ありがとうございます。あの、甲田様、私も宗主様を我が主君マイロードとお呼びしてもよろしいでしょうか」


 えーまじでーそんなーえぇー。


「ええ、よろしいですとも。そうですが、貴方も我が主君マイロードの偉大なる御力にひれ伏しましたか」


「はい! あの、戦うお姿があまりに美しくて。夢の中では毎回、我が主君マイロードが私に優しく「大丈夫か」と手を差し出してくれるシーンが繰り返されますし」


 おいおい、そんなシーンあったか? そもそも、俺、ちゃんとしゃべれてなかったでしょうよ。


「そうですか。確かに。我が主君マイロードの闘う姿は美しいですからね。判ります」


「そうですか! 判りました。我が主君マイロード近衛壱号は甲田様にお譲りします。私は近衛弐号ということで、お願い致します」


 なんだよ、近衛壱号弐号って。


「判りました。ではそれで行きましょう。続きを」


 おいおい、なんか決定しちゃってるよ。


「はい! えっと。探索者腕輪が日本でしか作動しないって話でしたね。あの、これ、日本と言ってますけど、正確には日本の迷宮ということです。日本の迷宮と諸外国の迷宮の違いがどこにあるのか? は今も研究されて続けています」


「探索者腕輪をよこせという諸外国の要望は未だに?」


「はい、それも継続中ですね。ですが、当然、日本側でもどうしようもないことなので、声は小さくなっています。次は日本国籍の入手の難しさでしょうか。まあですが、各国に探索者特別枠があてがわれていますから、さらに文句を言ってきている国は無視するとして。現状は免許取得時の教習所代金百万円にケチを着け始めたというか。補助金、助成金が出ていて、それでも百万なので、格安なのに」


「それは教習所の教官が、最低一人二百万円以上かかってしまうと言っていた、と」


 俺のセリフを伝えてもらう。


「そうなんですよ。これでも既に格安になってるんですよね」


 何十人ともなると予算的に厳しいのは判るけど。


「為替レートが現状1ドル50円弱、来年には40円になると予想されています。そう考えると高いんですよ。百万円は海外では数百万円になってしまう。日本以外の国は尽く迷宮による被害によってダメージを受け、不景気になっている場合が多いですし」


「ここまで円高になってしまうと、日本国内の産業バランスが大きく崩れてしまうのですが……そもそも、現在は、世界中が迷宮で大炎上中ですからね。日本は実質、プチ鎖国状態というか。おかげで、その点では大混乱せずに済んでいると」


「はい、その分、世界は大氾濫の被害拡大で……」


「ですね」


 日本人の預貯金はそのまま、世界を圧倒するパワーとなったし、輸出品も高額で取り扱われている……製造業は混沌としているが政府からの支援が大きいので、何とか維持されているし。当然、貿易などは摩擦どころかとんでもない状況なのだが、現在は確実に日本が有利に行えている。根本的な力で押さえ付けてるから、五月蠅い国も黙ざるを得ない。


「日本円の価値は相対的に非常に高くなっています……上がり続けているちょっとおかしい状況で。ですが、現状、日本ほど迷宮が管理できている国は存在しません。つまり、世界は常に大氾濫状況とも言えます」


 まあ、そうなんだよなぁ。イロイロとヤバイと思うんだよね。世界の現状。


「対岸の火事と思い、観光で冷やかしていた国、日本と同じことが、自分の国で発生し、ぶっちゃけ、ほとんどの国が対応出来ていません。魔物への対処法などのノウハウは日本に頼らざるを得ないですから」


「まあ、そのおかげで、日本が経済的にどんなに1人勝ち状態であっても、友好的な関係を結んでおいた方が良いという特殊な状態になっていますね。急を要する大氾濫へ、迷宮局討伐隊の海外派遣も行っていますし、最近は支援という名で迷宮討伐軍の構築……も行っています」


 海外諸国に迷宮局の討伐隊に率いられた探索者軍を駐在させているのだ。まるで安保状態のアメリカ軍の様だ……と年寄りは言っている。


「ご存じだと思いますが、株価が暴落し日本が最も弱体化していた当時、永続的に手を差し伸べてくれたのは、台湾だけでした。台湾は迷宮テロ前に経済状況の悪化した中国から、日本の協力の元に完全独立を果たしていましたから、そのお返しということだったのですが」


 まあ、国同士の関係なんて、持ちつ持たれつだしね。台湾は日本からの支援軍の派遣や迷宮被害への援助も最優先で行われ、現在では相互に非常に強力なパートナーシップを結んでいる。


「当時、アメリカは長年懸案だった在日米軍引き上げの最中で、自衛隊に変わって、魔物と戦う事はありませんでした。というか、極秘なんですけど、当初は当然の様に安保同盟国権限を振りかざして、研究対象として迷宮制圧を試みたんですよ。ですけど。お馴染み、銃火器等、通常兵器を受け付けない仕様に直面し、早々に撤退となりました」


「あ、それも噂じゃなくて、本当の事だったのですか」


「はい、これは……えーっと、確か、政府の極秘扱いの文書資料からですね。だから、内緒です」


 おいおい。そんなレベルの資料、どうやって見たんだ?


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