0071:お漏らし教室①

 なんだ、アイツら……本当にクソザコチンピラだったのか……。彼氏を騙るって。


「それに本当にうちの会社に入るのですか?」


「はい! よろしくお願いします! ガンバリマス! 大学辞めても良いです!」


「それは……どうでしょう」


「探索者としては駆け出しですが、それ以外に事務関係の仕事もこなせると思います。法務手続き、庶務手続き等何でもお任せ下さい!」


 なんかこの娘……こんなだったっけ? もっと大人しい……モジモジして下を向いてる……それこそ、初対面の人に話しかけるのは厳しい的な感じ……だったんだけどなぁ。


 変な部分で吹っ切れてるというか、お祖父ちゃんと揉めているうちにこっちの方向に進化したというか、大丈夫なんだろうか? というか、テンションも上がってる? ハキハキしているよな。実は内面はこんなだったってことかな。


「その子の姉の方であれば……あの、昔から思い切りの良い娘で何が起こっても不思議ではなかったんですが……」


 お祖父ちゃん談。まあ、ね。お姉さん、Has=一流探索者ということは、そこまでいくまでにイロイロあったろうしなぁ。


「いや……折角、京北の迷宮学部に主席で入ったのですよね? 内部生でも関係なく、受験があることでも有名な。天才とお聞きしましたが?」


「え? いや~そんなーあのーまあ、そう言われちゃったりーとかー」

 

 うちの大学の迷宮学部の競争率はとんでもなく高い。えっと、今年の入試で……迷宮学部のみで定員数が1023名の所に、応募人数が21万8千人というとんでもない数だったかな? 大体200倍近い。ムチャクチャな。


 少子化で大学が潰れていると言われている世の中で、ここだけ逆行しているのだ。当然だが、この成功にあやかって、各大学でも迷宮学部の創設が相次いでいる。


 まあ、なので、付属からのエスカレータで優遇されるとはいえ(確か試験成績にプラス10~30点だった気がする)、お漏らしは、200倍近い難関をトップでかき分けて合格した才女と言うことになる。偏差値だと振り切れてしまって、75以上って表示だったハズ。


「では……お試しに迷宮関連の授業をお願いします。我が主君マイロードはさすがに、最先端の迷宮の知識はお持ちではないですから」


 うーん、まあ、そうねぇ。でもそんなの雑誌レベルで問題無いと思うんだけど。っていうか、甲田さん? 授業? 俺、学校から帰ってきて再度授業?


「判りました! では……まずは……ホットな話題から! 迷宮、探索者関連の実写、映画化やTVドラマ化は非常に難しいじゃないですか」


 頷く。


 ん? これはこないだの噂に関する話題かな? というか、コイツ以外に耳が早いのか? 甲田さんと同レベルって。


「それが、遂に、迷宮の浅い階層であれば、動画撮影が可能になるって話です。これ、近日発表らしいですから、それまで内緒ですよ?」


 ぬ。噂じゃないの?


「それは私も聞きました。まだ噂の段階では?」


「私のは確定情報です。魔導具工房に先輩が何人かいまして」


 そりゃ……確かに強い。というか、口軽いな。


「内緒ですよ? お二人だから、というか、宗主様だから話してます。まあ、今ならそうやって余裕をもってイロイロできるんですけど、迷宮発生当時は厳しかったそうで。当初、迷宮災害に対岸の火事だったアメリカ、ハリウッド辺りではとんでもない数の企画が提案され、日本の映画関係者、関連会社のみならず、日本政府への協力要請すらあったと言われています。最初のうちは、適当に流せるくらいだったのが……次第に無視出来なくなって」


 その辺の政治的な力関係の細かい事は知らない……なぁ。というか、いつの間にか迷宮史の授業になってる?

 

「大規模な調査……キッカケは諸外国からの圧力と噂されています。が、行われ……その結果、国連などの国際会議で、魔物がそばにいると周辺の電子機器、火薬兵器、BC兵器……全ての文明の利器が不調になる現象が発表されました。これもご存じですね?」


 ダンジョンアフターセンチェリー、DAC2年の出来事だったハズだ。ちなみに現在はDAC13年。


 頷く。


「迷宮情報共有条約……これによって、一時期日本は、全世界から武力圧力を含めた恫喝を行われ、迷宮に関する全ての情報を、全世界に公開せざるを得ない……という状況になりました」


 ちなみに実験結果を発表したのは日本ではなく、各国の調査団ってのが腹立つ所。当時の各国は、日本の迷宮にそれらの兵器を持込、試験を行ったのだ。


 日本は、日本人はその時のことを未だに許していない。


「現状で一番文句を言われているのは、日本国籍を手に入れなければ、最終的な探索者になるための試験を受けることが出来ない迷宮免許制度でしょうか? ある意味、日本国籍は既にプラチナチケットです」


「そもそも探索者腕輪が日本以外で機能しないのが問題では?」


「そうですね~それは工房でも未だに解決していない問題なんですよねぇ」


 保管庫などの一般的な魔道具としての機能も当然ながら……迷宮での経験を探索者の身体にフィードバックするという根幹分が重要なのだ。


「「日本国民しか、迷宮内で強化が実感出来ない」状況ですからね。他国から日本が羨望の眼差しで注視されるのも仕方ないでしょうね」


 というか、戦争まで行ったしね。


「当然……探索者腕輪をよこせ……と言ってくる諸外国というか、その辺が露呈していった当初、特に各国に迷宮が出現し、大氾濫が生じ始めたDAC3年辺りから、世界中から日本に対して圧力がかかったんですが」


「無理だったと」


「はい。何度造り直して試しても、何度改良してやり直しても、探索者腕輪は日本の領土以外では起動しませんでした」


 というか、お漏らし……講義上手いな。所々に、俺どころか、甲田さんも多分知らない情報を織り交ぜている。アレ? それってそうだっけ? とちょっと疑問に思った時点で、既に知っている話もキチンと聞いてしまう。


「これは別にわざとそうしていたわけではなく。虐められたから仕返しとか、国策でも意地悪しているわけではなく。腕輪の作成者、迷宮局魔道具工房のトップが直接調査を行ってもどうにも出来なかったそうです」


最高熟達者グランドマイスターが……」


「はい、そうです。今では神に近いと崇められている最高熟達者グランドマイスターが直接調べてもどうにもならなかったと、ある熟達者マイスターの日記にありました」


 そんな資料どこで見つけた? お漏らしのくせに。


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