0070:お漏らしさん再出現

「でも、うちのクローゼットに普通に掛かってるんです……この辺のコートとか。薄手なのに冬はもの凄く温かくて、夏は涼しいので重宝してたんです。サマーコートとしていけますし」


 でもじゃねぇよ。うるせぇよ、バカ。数千万のコート、普通にクローゼットに掛けておくなよ。ちゅーか、夏にコートって何だよ。着んのか。金持ちは着るのか。夏でもコート。


 うん、まあ。そうだね。このレベルのHMハイパーモンスター装備には「常に適温に保つ」という、現代社会ではあり得ない温度調整機能が付いてるからね。火山地帯なんかの熱い場所でも、汗一つかかないし、吹雪の中でも髪が凍り付いたりしないレベルで調整されるからな。ってバカ。


「しかもお姉ちゃんが普通のコートに見える様に外見偽装してくれたので……気軽に使えていたというか」


 いやいや、外見偽装の魔道具は万能じゃないんだからさ……。


 本庄さん来宅の次の日。放課後。


 お漏らし、あ、いや、学校の先輩である、本庄詩織さんはグズグズな流れで、「なぜか」俺の部屋にいる。


 というか、うちの会社に入社することになってしまっているかのような。そもそも、あの土下座じいちゃん……お漏らしのお祖父さんが土下座を止めなかった。


「助命していただいた時点で感謝しか無いモノを、こちらの都合で周囲を探るなど……。今回の失点を取り返す、そんなつもりは毛頭御座いません。この老骨の命でよろしければ、喜んで捧げましょう。ですが、孫自身が宗家様に対して並々成らぬ興味を持ったのが、今回の件の原因で御座いまして。その執着たるや、少々異常とも思えるほどで……。良い子なのです。何人かいる孫の中で一番大人しく、一番良い子で、賢い自慢の孫……だったのです。なので……これまでこんなことは……。個人的に考えると、宗家様に何か特異なお力を感じ、拘っているのかもしれません」


 うーん。うーん。ストーカー気質? おかしくね?


「さらに、私が謝罪することで納めるから、お前はもう一切近づくなと言い含めたのですが、聞く耳を持たず。今後、また再びご迷惑をおかけするやもと考えると、それならば、まずは、私が管理不届きとして命を差し出すか、はたまた、既に無かったものとして宗家様に差し上げ……いや、会社のお手伝いをさせて戴く方が、お怒りを買わずに済むかと思いまして。お好きなようにしていただいてかまいません」


 差し上げ……って言った。本人希望の人身御供ということか。


 話を聞くと、先輩と言っていた通り、お漏らしさんは、うちの大学の迷宮学部迷宮経済科の学生で、主席入学。新入生代表ってことはそういうことだ。

 探索者としても免許取得直後に回復魔術が使え、研究者として有望、いろんな分野から天才と言われ、勧誘も多いらしい。それこそ、姉から即戦力として勧誘を受けていたと。まあ、そんな感じで迷宮学部を選んだわけで。


 その流れで、探索者の級上げの為に迷宮にいたようだ。研究者になるとしても、ある程度の級数は必要になる。フィールドワークに出る迷宮研究者多いからね。


 さらに。彼女のお姉さんが、あのHasハスだそうだ。


 ランカーとしては「無双」間宮宗一に劣るモノの、パーティとしては現在ナンバー1と呼ばれているクラン(株式会社)、「リングガーデン」の女性アタッカー「閃剣」Hasである。


 探索者の作った株式会社の中では非常に大きめのクラン(探索者は自社の事を会社じゃなければクランと言う。というか、ほとんどの会社がクランと言っている。さすがに本来の意味の血盟団とは言わない。恥ずかしいからね)。


 で、探索者、中でもアタッカーは数十人在籍しているハズだが、その中でトップクラス、一軍の美女? だ。


「リングガーデン」は顔ばれを良しとしていないのでマスク(目元を隠している。マスカレードとかいうヤツ?)をしている映像や写真しか見たこと無いが、多分、キレイなんじゃないかな? と噂されている。地上で撮影された探索報告や地上での訓練風景を撮した動画も凄く人気あるし。


 現状、ヨスヤみたいに顔ばれでアイドル活動をしている方が珍しい。特に女子は少ない。常に危険と隣り合わせの危うい状況でもあるからね……迷宮は。

 魔物もそうだけど、探索者に襲われるということだって……無いわけじゃ無い。と思う。発表されていないだけで、級や実力が上の方に行けば行くほど、妬みやっかみ、やれることの自由度の増加……結構な頻度、確率であると思う。


 なので、まあ、特別な事情が無い限り、精神的に弱いタイプに探索者はオススメできない。苦労してる話しか聞かないもんな。


 ああ、外面がキレイな人もヤバイか。男女共に襲われるらしい。怖い。的場さんも何回か返り討ちにしたことがあるみたいだし。


 そういえば……。


我が主君マイロードに救助されたときに、組んでいたパーティはどうしたのですか? と」


「え? えっと、元々は私と……和美、あの、友だちの松尾和美さんと二人で、迷宮慣れするために巣鴨に行ったんですけど、そこに和美の知り合いの知り合いの人が強引にボディーガードするからと付いて来て……」


 あれ? 彼氏、彼女の関係じゃないのかな?


「その軽装備の方が、貴方を自分の女だと言っていたそうなんですが」


「ええーそんなのあり得ないです」


「そうなのですか? ストーカー的な? 可能性は?」


「会ったのって、あの時だけです。和美も何も言ってなかったので……何か付きまとったりされたりもしていないです」

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