0069:謝罪?

 風呂から出ると、山県さんに来客を告げられた。こんな時間に? まあ、それは良いとして。じいちゃんじゃなく? と思ったが、俺とじいちゃん、共通の? 客? 何それ。


 甲田さんが後に続く。ああ、もう、誰かと話しをするときに、通訳的な役をしてもらうのが当たり前になって来ちゃったな~。


 良いのかな? 一流の探索者にこんなー身の回りの事というか、執事なんてやらせてて。別に執事をバカにしているつもりは無いけど、技能の向き不向き、適材適所ってあるわけでさ。


 応接間に行くと、ソファで対面している二人。見知らぬおじいさんが、じいちゃんに頭を下げていた。ん? なんで? 俺に? 用なの?


「ああ、靖人。彼は本庄の現当主、本庄雅賴氏だ。ワシはもう忘れてるからと言ったんだがな。どうしても謝罪したいと聞かぬモノでな……」


 ? ん? どういうこと?


「貴方が、若様、宗家様ですか。この度は誠に申し訳ありませんでした……」


 本庄、本庄……確かになんだったっけかな? 多分、俺がポカン? という顔をしていたのだろう。


「前にお前が、どこぞのての者を倒したという話をしておったろ? 暗器を持ち帰ってきた件じゃ。アレがな、大矢の下っ端……うちの分家の分家のさらに……といったポジションの家の者だと教えたろ。まあ、実際の所はお前を尾行していたようだがの」


 ああーああ、ああ。というか、んじゃ、この人は……えーと。お漏らしさんのおじいちゃん……かな? 本庄グループの元社長? 会長? かな?


(思い出した。尾行されてウザかったので眠らせただけで。謝罪するほどのことじゃなかったよ)


「思い当たりました。まあでもちょっと追い払っただけで、別に何も無かったですから、謝罪はされなくて結構ですよ?」


 甲田さんがキチンと敬語変換して伝えてくれる。カンペキだ。俺が言葉に詰まるのは、呪い云々関係なく、感覚的に敬語が難しいとか、そういう部分もあるからなぁ。


「その、こちらは?」


「ああ、靖人の……執事、側近と言った方がいいか。靖人は喋るのが苦手でな。うまいこと伝える役割をこなしてくれている。甲田くんじゃな。靖人の直弟子でもあるな」


「はっ」


「まあ、この通り、靖人は何も気にしてないのが判ったろう?」


「そうはいきません。先祖代々、歴代の御厨宗家様にはお世話になり続けてきたにも関わらず、知らなかったとはいえ、よりにもよって現在の宗家様に探りを入れるような真似を……腹掻っ捌く覚悟で……」


「それはここ百年近く、各家ごとに動いていた部分が大きい上に、本家分家、そして宗家と各自が連絡を密にすることもなかったからの。仕方あるまいて」


「とはいっても……大矢を使う私がキチンと管理出来ていなかった証拠で……」


(うーん、その辺もう、いいよなぁ。ちょい強め、そんなに言うなら逆に、命令してくれる?)


「宗家様ももう、気にしないということですので。本庄様もお気になさらず。これ以上は互いの為にならぬかと」


 うむ。甲田さんが、これ以上しつこいなら、そっちの方がマイナスになる可能性があるよと釘を刺した。気持ちはなんとなく判るんだけどね。本庄さんの。


 そんなちょっと強めの言葉に、ムリくり納得した……という表情をした本庄さんだったが……それを一転させて、それまで座っていたソファからガバッと降りて……さらに謝罪が進化した。ここ最近なんか見るなぁ~こちらも見事な土下座だ。


 ……なんていうか、まあ、ちょい前に、魂の土下座とでも言うべきモノを甲田さんに見せられているので、そこまで感動は感じなかったが、ソファから一気に止める間も無く土下座に持っていった本庄さん。ただ者では無い感が半端ない。


 ってこの土下座は……。なに? これ。


「その件は宗家様の恩情におすがりして、お許しいただける……として。そ、それらを踏まえていながら、さらに、さらにお願いいたしたき儀が御座います。宗家様に於かれましては、この度に迷宮関連の探索者による会社を設立するとのこと。そこに是非とも加えていただきたい者が居りまして……いかがでしょう? 如何様にもしていただいて構わないのですが! 雑用でも何でも使い様はいくらでもあるかと。どうか、前向きにお考えいただけませんでしょうか?」


 どういうこと? 今のところ会社設立予定ってだけで、確定じゃないし、社員募集もしてないんですけど……うち。


 っていうか、これは……。


「じ、じいちゃ」


「おう。甲田くんがな、イロイロと説明してくれていたからな。本庄がどうすれば謝罪できるか……とあまりに真剣に相談してくるでな」


 ……それじゃぁさ……単純に人質じゃないですか。アレだ、息子とか娘を有力な大名に人質として預けるやつだよね。徳川家康とかが経験してる。どういう時代錯誤。というか、それがお詫びになると思ってる感性がおかしい気がするなぁ。


「それは……人質とか、人身御供とか、そういう意味合いでの?」


「い、いえ、その……あの……」


 甲田さんもこれで、正義感が強い。キライだよね。そういうの。


「実は、ま、孫に是非とも……と頼まれてしまいまし……て」


 ん? なんて? 


「ああ、それは断れんなぁ。ワシも靖人におねだりされたらなんでも叶えたくなるからな」


 いやだから、じいちゃん……。そういう親馬鹿じゃなくて、孫馬鹿っていう話じゃないんじゃ?



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