0066:探索者魂

 職としてなら。他に幾らでも溢れている。迷宮特需のせいで日本人が日本で働くのに不自由は無い。充分生きていける。命をかける必要がないのだ。


 だが。探索者という名前が付いているとおり、地位と名誉、さらに財宝は「探索」してこそもたらされるモノである。良く例に挙げられるのは16世紀の大航海時代、冒険者達だ。早い者勝ちで続々と植民地を広げていった彼らと同じ……ではないが、一番最初に階層を制覇するのは格別の快感があるという。

 早い者勝ち……という考え方は……16世紀から変わっていないのも大きい。まあ、アレは主に奴隷売買や植民地支配なんていう甘い汁を手中にしたいっていう俗物的な考えが主流だっただろうけど。


 新大陸を求めて、多くの冒険家、賭博師、武辺者、単なるバカ、命知らずが船で旅立っていったのと一緒で、常に深い階層、さらに下の階層の探索が求められ、それを、探索者も求める。


 見知らぬ物を見る。見知らぬ事を知る。という好奇心という名の欲求は、食欲、睡眠欲、性欲に勝るとも劣らないフェロモンを放っているのだ。命がけで挑まねばならないほど、困難な道だとしても。


 その結果、どうしてもソロでは命の回収率が下がり……気の合う仲間、利害関係が一致した仲間、契約を交わした仲間。固定のメンバーとパーティを組むことになる。


 その時点で、多くの初期探索者が気が付いた。固定メンバーとパーティ活動する場合、迷宮外でのあらゆる事象、特に経費に対して効率が良いのは、メンバーとの株式会社の設立だと。


 当然、迷宮出現後、あっという間に多くの会社が生まれたのだが……探索者特有の様々な事象により、問題が多々発生。中小レベル以上の大会社、社員数百人レベルの探索専門会社は未だ生まれていない。

 どちらかと言えば、昔から存在した巨大商社や企業グループの一部門として、探索部、探索課が存在するパターンが多いようだ。いずれにしてもそれほど大規模ではない。多くてもパーティが2つ。構成員は十数人と言ったところだろうか?

 以前。とある商社が探索者の大規模な囲い込みを行ったが、最終的には報酬の折り合いがつかなかった。ならばと、某巨大警備会社が既に雇っていた社員を探索者にする方法で参入したが、たった一回の作戦ミスで全滅。その賠償問題が訴訟化し、未だに大もめしている。

 まあ、今、一番多いのは、パーティメンバーのみでの会社化。事故でメンバーが欠ける様なことがあったら解散。というパターンが普通らしい。


 で、甲田案が、会社=クランってやつね。名前通りの「絆の濃い」組織にしたいんだってさ。なんか厨二っぽいというかさ。ってまあ、そんなのどうでもいいか。まあ、俺の下に従おうなんていう奇特な探索者は……そうそういないはず……あ。いた。


 的場宗一さん、探索者アイドル「キラキラ」ヨスヤのお兄さん……甲田さんの親友の上に、何時死んでもおかしくない状態から癒やしちゃったからなぁ。来そう。スゴく来そう。甲田さんの土下座的に助けないって選択肢は無かったけど、ヨスヤの件があって確実に面倒くさい事になりそう。


 コミュ障な自分にはそんな組織どころか、パーティを組めるかもな仲間すら無理と、諦めていたからなぁ。こういう時、どうすれば良いのかサッパリだ。


 まあ、でも、よく考えれば、良いことなのか。これ。今後、確実に一人では先に進めなくなる時が来る。そのためには仲間や協力者が絶対必要だ。


 甲田さんや的場さんを……巻き込んでもいいものなんだろうか? 事前に説明すれば良いのかな? うーん。いいか。


「全部出来ると思うな。できる限りでいい。ただ、その限界は自分で決めろ」


 父さんに言われた事がある。当時気負っていた俺はそれで力を抜く事は出来なかったが。


 限界、か。


 討伐隊総長を倒すことは無理でも、足止め位なら何とかなる。なった。これは、どういう意味を持つのか? 表の世界とはいえ、金メダリストと対峙出来る能力と言ってもいいだろう。当然、総長も、本気ではなかった。が、それはこちらも同じだ。


 俺の限界は……どれほどの人を巻き込んで大丈夫なのだろうか? 判らない。難しい。最低でも、パーティ一つ分位のメンバーは確保したい所だけど。


(そういえばこれはまだ噂ですが。迷宮の第一階層、ギルド層であれば、映像が撮影出来るようになるかもしれないという)


(え? そんな噂が?)


(はい、迷宮局の魔導具工房主導なので嘘ではないかと)


(すっご。そうなると、もの凄く盛りあがりそうだねぇ。探索者界隈)


(ええ。これまで創作か……大氾濫時の劣化した映像くらいでしたから)


 近年あらゆる実働する社会組織では、各現場で記録を保存するようになっている。


 特に戦場やテロでの戦闘等という尋常ならざる事態は、交戦記録、証明記録、各種資料用として、様々な角度から撮影が行われていた。それこそ、自衛隊の特殊部隊など、臨機応変が求められる現場では標準装備に全方位ヘッドセットカメラが含まれている。


 最新技術が注ぎ込まれた特殊部隊の運用。映画などでもお馴染みのように、軍用GPS、各種無線電波による個体識別、隊員個別の視線映像の確保により、指揮所からのモニター越しによる有機的な部隊運営が可能になっている。

 現場隊員が今見ている視界を共有し、俯瞰から眺め、詳細な地図、地形図、建造物見取り図を瞬時に作成。事前データがあるのならそれとも照合して、正確性を高める。その2D、3Dの地図上を各隊員のマーカーがリアルタイムで動き回る。指揮官は冷静に的確な指示を下す事が出来るのだ。まるでゲームの様だ。カッコいい。


 残念賞。


(どうにもならなかったね……)


(本当なのか、ずっと前にカメラを持ち込んだことがあります)


 迷宮ではそれらが全て使い物にならなかった。

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