0065:家

 俺の暮らす、じいちゃんの家は所謂、旧家、名家の佇まいで家族三人だとかなり広い。家屋が幾つかと道場。裏山ほぼ全ての雑木林の敷地が庭だ。ギリギリ外れとはいえ都内だ。凄まじい広さだと思う。


 お手伝いの今日子さんは通いなので、使用人部屋のある離れは丸々空いている。さらに内弟子のための長屋。今は山県さんたち三人か。じいちゃんが子供の頃は高弟、師範代を含めて三十人近くがここで生活していたそうだ。


 俺の部屋も勉強部屋と寝室が続いている。二部屋。無駄に広い。元はじいちゃんの本当の息子さんが使っていたそうで、家具も無駄に豪華だ。

 ちなみに、うちの親がその息子さんの仇を取ったらしい。で、色々あって本当に色々あって、幼少期から俺はここでお世話になっている。


(しかし、我が主君マイロードは……迷宮外で魔術だけではなく、パーティ会話まで使えるのですね……)


(なんか使えたね……元々パーティ会話とか微量だからな。消費魔力。使おうと思ったことが無かったから、いつから使えたのか分からないけど。まあ、これから先、他のみんなも魔力が大きくなれば、使える様になるよ。俺もまだまだだし)


(微塵も……感じないのですが……)


(俺も、もの凄く消耗しちゃうから、外では簡単な術しか使えないよ)


 パーティ会話は基本、腕輪の機能だ。これも通常は、迷宮外では魔力が供給されないので使えない、となっている。


 だが、俺は魔力を腕輪に合わせて練り込むことで強引に使える様にした。迷宮だと30メートル程度の範囲で会話可能なのが、俺の周囲10メートルくらいに機能縮小はしているんだけどね。うん。そんなにムチャな話じゃ無い。


(それでもおかしいかと思います……)


(そうかもね、でもおかげで甲田さんが通訳するのに楽)


(会話の振りだけでもしないとですが……)


 外で俺の通訳を頼むときは、甲田さんの耳元で囁くっていうワンアクションを入れないと、不自然になってしまう。実はすでにちょっと面倒。贅沢だな。これまでに比べれば……凄い楽なのに。

 

 ついでにということで、保存庫も迷宮外で使用出来ないかな? と思ったんだけど、それは無理でした。残念。俺の保存庫、既にそこそこ大きいから便利なのにな。


 勉強机に使用している、両側に袖机の付いている偉そうな机の脇、壁際に甲田さんが立っていた。

 いや、確かに広いけどさ。ここ、俺の、男子高校生の勉強部屋よ? そこにその……なんていうか、待機してるのってさ……。


(んーそれにしてもそこに立たれると、なんか……俺がクソ偉そうな感じになってない? この部屋。スゲー気になるし)


(少なくとも私にとっては、尊敬する君主であられますから)


(……なんでそんな時代錯誤な主張が認められてしまうのか)


 甲田さんは、いつの間にか、パーティメンバーというか、住み込みの俺の秘書というか、執事(本人談)として、この家に入り込んでしまった。


(入り込んでしまったなどと人聞きの悪い。御屋形様に許可をいただきましたし)


 そう。この人はじいちゃん、ばあちゃんにキチンと説明し、説得してここにいるので、俺にはどうにも出来ないのだ。


(御屋形様、奥方様からは素晴らしい心掛けと。褒めていただきましたから)

 

 じいちゃんばあちゃんはなー赤の他人の俺を自分の息子、孫の様に時に厳しく、愛情を持って、まあ、可愛がって育ててくれている。今では書類上はじいちゃんの養子なので、本当の息子だ。ぶっちゃけ……二人とも親代わり、超親バカ状態だからなぁ。


 甲田さんは俺の事を君主として如何に素晴らしいかを語り、二人を良い気分にして住み込みの執事を認めさせたのだ。あっという間に、使用していなかった使用人部屋に荷物が持ち込まれて、住み込みで仕事?(ぶっちゃけ、他人と会話してくれるだけで助かっているんだけどね)を始めてしまった。


 給料は別にどうでもいいらしい。当面は俺が受け取らなかった彼の財産をそれに充てるそうだ。……それ、元々甲田さんのモノだよね? ちゅーか、自分の貯金で生活しているってことだよね? 俺的にはもう少し稼げる様になったらちゃんとしようと思っているけどさ……。


 なんか、はいはいと、適当に聞いていたのだけれど……甲田さんは俺をリーダー、いや、リーダーとして探索者グループを作ろうと思っているらしい。アレだ、会社だ。日本社会での実質的な登録などは株式会社となるが、探索者限定の形態緒でもあるため、一般的にクラスタ、クランなんて呼称されている。


 そもそも、クランの本来の意味は血族だ。まあ、水杯を交わした義兄弟集団……甲田さんは俺を君主にして、本来のクランを構築しようとしている気がする。ちょっと怖い。


 探索者は基本、個人事業主だ。迷宮内での迷宮局からの扱いや対応等は、基本各個人毎に処理される。


 が。級が上がり、魔物が強くなり、集団で襲いかかって来るようになると、パーティを組まざるを得ない。上を目指す場合、完全分業にして能力を特化させないと戦闘効率が悪くなる。所謂「壁」にぶつかってしまう。


 純粋に迷宮で入手出来る、それなりに高額買い取りの期待出来るアイテムを定期的に持ち帰る……という行為だけであれば、多分、ソロで行動するのが一番楽だと思う。さらに言えば、毎日コツコツと同じ作業を繰り返せる人であれば、そばに他人がいることが煩わしい。それこそ、自分なりの狩り場巡りの順番、隠しスポット、穴場などの情報は他人に公言するようなものではないからだ。

 まあ、本当に初期の頃。迷宮低階層の紹介でその辺の情報がネットなどでも書き込まれていたことはあった。が。現在ではほぼ存在しない。その小さな情報が生活に直結している者が数多くいるからだ。


 と、まあ、生活のためだけに探索者をしているのであれば、「壁」にはぶつからない。ぶち破る必要がないからね。


(せめて座ってよ……)


(それはできません)


 言うこと聞いてくれないよ、この執事。


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