0064:追跡者たち

(甲田さんと会う前の日、かな)


 ……話は少し戻る。


 お漏らしさんが高校に来襲した日。どこかの手の者? が俺を尾け始めた。学校からは、迷宮の外だと六人での波状尾行で、迷宮内になったら三名が~っていうアレだ。


 痺れて気を失い、動けなくなっている三人(男×2、女×1)を回収(引きずって)して、二階層のゲート部屋に放り投げておいた。

 完全に安全とは言いがたいが、迷宮で気を失うなんて死んだも同然だ。迂闊すぎる。さらに、巣鴨迷宮は迷宮局の調査管理中だ。自由行動出来る探索者は存在しない。依頼を受けているにも関わらず、俺を追いかけていたのだから……迷宮で寝ているなんていう大胆なミスをしたってことで、迷宮局の人に怒られればいいって感じで。少なくとも今回の期間中は出禁だろうね。


 まあ、どうせ、彼らは何聞いても曖昧な情報しか話さないだろうし、ゲート部屋で倒れていたのも異変の一環……と思われるかなってね。


 ちなみに、引きずる際に持ち物チェックをさせてもらったが、やはり短剣系軽装備のごく普通の探索者……じゃなかった。


 うん。さりげなく暗器が。腕の裏側に食い込ませて、張り付けてあったからね。暗器にしても念を入れすぎな気がするけど、別におかしいことじゃない。


 細い針金系の暗器は、いざという時の武器以外に、解錠や罠解除にも使用する。


 でもなー。三人が三人とも同じタイプの暗器を隠し持っている……っていうのはね。うん。おかしいよね。ということで、一本戴いておいた。


 これだけ人数を揃えて組織的に動ける暗部だ。特に探索者として普通に活動している者を三名も、俺の様なザコ10級探索者に張り付けることが出来るのはスゴイなって。

 裏の世界ではそこそこな勢力じゃないかな? って。裏の世界で有名という事は……ヒントがあれば、じいちゃんか、弟子の人たちの中に判る人がいるかもしれないなと思ったんだよね。


「こいつは……細川流、今でも現役で使ってるのは大矢のとこの者か」


「はい、師匠」


 ほら。家に帰って、今日、怪しいヤツに尾けられて、これを持ってた。と、針金状の暗器を渡したら即答で答えが。


「東京じゃと、本庄のとこの影じゃな」


「探索者……なんですよね? 坊ちゃん」


 頷く。じいちゃんと一緒に稽古していた師範代、山県さんは未だに俺を坊ちゃんと呼ぶ。やめてって言ってるのに。もう。


「何が目的じゃろうな……靖人を……襲われたのか?」


「う、ううん。め、めいきゅ、て、たおれてて、あん、あんぜんな、とこ、につれて、ちった」


「おうおう、優しいのう。靖人は」


 じいちゃんは、爺バカだ。無限甘やかしだ。ばあちゃんも確実にそれだ。俺が普通の子供だったら確実に、バカぼんになってた自信がある。

 ねだったことが無いから判らないけど、オモチャとか欲しいモノがあったら、言えば何でも際限なく買ってくれたんじゃないだろうか?


 そんな勢いというか、ノリが感じられていたので、TVのCMを見ながら「あ、これ欲しいなぁ~」なんてセリフもついうっかりでも口にできなかったのだ。


 ちなみに、衣類、文房具、参考書とか、事典とか勉強や学校生活でないと困るかな? レベルのアイテムは尽く買ってもらっている。それだけでも感謝しても仕切れないほどありがたい。そもそも、百科事典系、各種データ、有名小説系はじいちゃんの書斎に山ほどあるのでこと足りていたし。


 多分、俺の両親がほぼ家にいない状態だったのを、もの凄い気にしてたんだと思う。まあね。父親なんて既に十年近く満足に会えていないし、母親も年に数回、特に近年は年一回会えれば良い方って感じだだ。


 でも。本人としては親を失ってしまった悲しみを思えば……なんてことはない。二人とも生きているし、無理をすれば会えるのだし、偉大な……とにかく凄まじい仕事をしているのも判っているから。


 我慢し続けてきた物分かりの良い子、だからといって甘える様な素振りも見せず、唯一言った我が儘が、探索者として迷宮に潜りたい。のみ。


 じいちゃんは、危険だから止めろとは言えなかったしな。なぜなら、13歳の時に、免許皆伝、師範位を授かり、内々の試技会でうちで現役最強の真白さんを倒している。


 まあ、俺の飲み込みが早いのを面白がって、技や秘伝、終いには奥義まで教え込んだじいちゃんが悪い。


 自分でも、アンバランスというか、よく分からないというか、肉体と精神のバランスが取れてない。なので周りの大人からすれば、心配で見ていられない……らしい。


「あ」


「なんじゃ?」


「こ、こなま、まえ、たす、たすけた、ひひとのめめめめ、いんが、ほ、ほんじよ、し、しおりって」


 確か。お漏らしが本庄さんとか、しおり? とか呼ばれてた。パーティメンバーに。


「靖人は、たくさん助けているんじゃな、偉いのう、さすがじゃ」


「た、た、たすえられ、られるときだ、け」


「ああ、そりゃそうじゃ、余裕のあるときだけでええ。探索者など、我ら武篇者や山師と変わらんからな。本領は」


「本庄家……詩織……。確か本家の次女がそのような名だったと記憶しております」


 うわ、やっぱ、あの女の関係者か。というか、ならば、あの女が黒幕? 漏らしたのに?


「て、て、き?」

「んー本庄家は敵でも味方でもないのう。じゃが、本庄の暗部、影は大矢という流派でな。その大元になった細川流は大戦で滅んでおる。細川はうちの分家の一つじゃった」


 んーと、弟子の弟子? ってこと?


「や、やまか、かた、さん、な、なにもし、しないで」


「は」


 あっぶなーこの人、今、確実に、その、大矢の人たちを潰しに動こうとしてたよね? 顔がそう言ってる。


 うちの師範代たち、動くと武力的にいろいろと怖いコトになるから嫌。あの戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーと大して変わらん。挑んでこないだけで。


(ということがあってね? その次の日に甲田さんと会ったわけだけど。なのでこんがらがってたんだよね)


(そうですか……申し訳ありません、私はその本庄家も、大矢流ですか? そちらも聞いたことがございません)


(そっか、偽勇者とは完全に別口か~そうか~)


 



 


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