0063:有名な魔物
迷宮の出現によって、オークやオーガ、ゴブリン、スライム、リザードマン等、ファンタジー世界さながらの空想世界の産物、有名魔物がこの現代社会で確認された。
……それこそ各地の伝承などから、中世ファンタジー世界のデザインの根幹を生み出したと言われているファンタジー小説の開祖と言われるような作者たちの創作物が、具現化したのである。
研究家によれば、そもそも、何故、ゴブリンやスライムという存在が、空想とはいえ、迷宮出現以前に魔物として認識されていたのかが問題提起されている。ひょっとして……多くのファンタジー創作関係者は、迷宮出現以前に、迷宮と遭遇していたのではないか? という意見もあるくらいだ。
だが、人類の前に出現したのは、それら、お馴染みの敵だけではなく、名称不詳な魔物も多かった。実際現在も、良く判らない生物に良く判らないまま殺される探索者は多い。
さらに、その辺を細かく言い始めると、多くの有名魔物は発見されてないし、なぜいないのかも不明のままだ。
攻略され尽くしていない、迷宮の深層にまだまだ様々な魔物が生息していると言われ続けているが、真相は明らかになっていない。だってまだ誰も深層に到達していないからね。
で。ドラゴン。世界でもっとも有名な魔物にして強大な力を所有する、ゲームでボスと言えばコレという位のお馴染みさんなんだけど、これまでに迷宮では一度も確認されていない。
迷宮ではある程度の階層毎にボスエリアが出現する。強力で巨大な魔物がボスとして登場する場合が多いのだが、ファンタジー世界において、ドラゴンに比べれば格下ばかりだ。
ミノタウロス、リビングアーマー、スケルトンウォーリアー、ガルーダ、グリフォン、ジャイアントスパイダー、マンモス、一角兎、セイレーン……。
まあ、見事に中ボス、B級か。とはいえ……これらのボスだってただ簡単にここに名前が挙がっているわけじゃない。発見、遭遇し、逃走又は討伐されたから……その名前や存在が明らかになっているのだ。当然……そこまでに何人、何百人もの探索者が血を流している。
で。
もしも本当に、現実として、ドラゴンが現れたのなら……更なる血が求められるのは確定的だ。ドラゴンが外見だけの張りぼてで、既出の魔物より弱ければ何の問題もない。
そんなわけ、ないよなー。見た目がドラゴン。で、実力はジャイアントサラマンダー……ないな。ない。報告したのは素人じゃない。討伐隊の隊員、俺が稽古という名の死合をしていた最中も潜ってたということは斥候専門、中でもパーティ単位で適時戦闘行動に移行できる、威力偵察が可能な隊員たちだ。
大規模作戦中、武力集団、まあ、小規模とはいえ軍隊で戦闘「する」か「しないか」を判断する権限をパーティ単体、又は部隊単体で行う。迷宮では当たり前の事だが、地上の……特に軍隊系の組織では普通では無い。
独立武装偵察部隊ということになるんだろうが、この場合かなりの信頼、討伐隊で言えば階級だけでなく実力のある者のみで構成されているなどの、客観的な事実が必要になる。カメラなどの記録媒体が無いため、地上ににいる指揮官の意見を確認してから……という悠長な手続きは踏んでいられないからだ。
まあ、優秀な隊員からの信頼出来る報告ってやつだ。あの「ドラゴン」っていう単語は。依頼を受けて活動する我々探索者とは根本的な信用が違う。
(そういえば、甲田さんはなぜ、偽勇者からの依頼を?)
(的場の治療費が大変だろう……と。声をかけられたのです)
(あやし!)
(はい。証拠はありませんでしたが、明らかに容疑者であるヤツからの、タイミングの良い美味しい話。怪しいのは判っていましたが、対象が10級であること、間宮の身内が手足の骨をを砕かれる重傷を負い、罠を仕掛けられて一方的に嬲られたこと、別に体罰だけでなく慰謝料等で詫びを入れさせられれば方法は問わないこと、と言われ)
えーっと、身内っていうのはアレか、軽装フル男と重装フル男のどちらかが、ヤツの従兄弟とかそういう感じか。お兄ちゃんやられちゃったよーって泣きついたと。
ん? あれ? そうか、ヤツラ2人とも「鬼斬」にやられたの覚えてないのか。障害が残るレベルで痛めつけたのは……「俺」ということになってるのか! なんたる! 理不尽な! でもあの状況じゃしょうがないか……。
(で、報酬に目がくらんだ、と)
(申し訳ありません。その通りです。それに、自分であれば……他の間宮の取り巻きどもよりも穏便に済ませることが出来るかと愚考いたしました)
ああ、そうか。だから甲田さん、最初に裏ランキングを名乗ったんだもんな。
(自分のランキング、しかも裏の方を自ら威張るのはかなり痛い行為だとは思いつつ。そんなもので依頼が達成できるのであれば、使いどころかな、と)
(受けちゃったな~)
(普通は、裏の意味を知っていれば……尻込みするハズなのですが)
しなかったね。やる気満々だった。
(間宮からそれ以外は聞いてなかったの?)
(確か……外では強いけれど、迷宮内ではどうってことはない……ああ、それにやったことが過剰だと)
(あれなー「鬼斬」なんだよなぁ。酷くしたの)
(そうなの……ですか?)
うん、そう。くそ。怨みを必要以上に買ってるのって、ヤツのせいじゃん。
(そうなるとその次の日の尾行は完全に別モノか)
(……申し訳ありません、それは存じ上げません)
で。数時間。散々待たされたあげく。今日は今後の方針がまとまらないということで、帰宅許可が出た。が、明日からの無制限臨時拘束、いや、指名依頼を受けさせられたけどね。
(指名依頼は基本、断れませんからな)
(だねぇ。迷宮局からの依頼ってだけでもう無理だもんね。逆らったら腕輪没収って本当?)
(免停、免取は違反者への罰則ですが……緊急時の迷宮局からの指名依頼の拒否も罰則認定されてます。点数は重要度によって可変します。一つの依頼拒否で免許取り消しは聞いた事がありませんが、裁量権は迷宮局にありますので)
(学校終わってからで良いってだけでもかなりの譲歩なんだろうな……)
(はい。多分、討伐隊としては、朝から待機させたいハズです)
(だよね)
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