0062:空気を裂く音

 突きの連続、連発、連射。しかしこの速度は……本当に厄介だ。


 それにしても……スタミナ無限かよ! この手の連続攻撃は息を止めて行ったりするのに! いつまで続くんだよ。


 それを言い出したら、俺は二戦目か。にも関わらずこれを繰り出してくる総長……ああ、そうか。一戦目でなんか気付いたな……。そうね、でないとあの場面で出てこないか。

 最初はそれでもすぐに決着が着くと思ってたんだろうし。ここまでやれると思ってなかったか。ちょびっと戸惑ってるのが判るもん。


 しかし、総長、そういうギフトなんだろうな~。そうではないかと思っていたが、確信に変わった。【継続】とか【膂力節約】なんていう、多分、そっち系の特殊スキルを持ってるのね……そりゃ強いわ。


 ステージが違う。これ、一発でも擦ったら確実に肉毎抉られる。今でさえ、かすりもしていないのに、細かい傷から血が滲んでるのに。


 練習、稽古……じゃないよね。普通の稽古で、この螺旋の技、使わないよね? きっと。だって、さっきの山野さんクラスの相手なら最初ので死んでるもの。


ガポッ! ゴグ! ゴグッッ! ボッボッブボッ!


 おおよそ、六角棒を振り回したり、突き出したりする際に発生する音ではない……擬音が至近距離で発生している。勢いと共に、体を当ててこようとするのを去なす。というか、正直、真っ正面から激突するなんて、ダンプカーに当りに行く様なものだ。というか、ダンプカーよりも強いでしょ、多分。


ミシッ


 さらに嫌な音が……連発する。空気を纏った螺旋突き。若干まとわりつく大気の震動で、ピシピシと細かい衝撃が走る。ギリギリで回避していることもあって、顔なんかは特に感じる。小さな切り傷が沢山できていることでしょう。


 でも。


 でもでも。


 でもねぇ、ごめんねぇ。これくらいの力なら、技なら。見たことがあるんだ……よっ!


 と。この試合? 初めて、俺は踏み込んだ。


 一戦目と同じ様に、長期戦に持ち込んでもいいが、視界の隅の観戦者に別の流れが加わって、一瞬空気が乱れたのだ。確実に何かあったと踏んだ。


ガッ!


 俺とは逆側、違う方向からの一撃。防御された直後に。総長の巨体の影から、死角に屈む。で。一瞬、一瞬だけヤル気を消し、腑抜ける。


 総長の気が揺らいだ。


 うん、貴方と対峙して腑抜けられるヤツがこれまでいなかったんだろうね。無意識のうちに闘気=戦う気配で敵をターゲットする癖がついてるよ? 


  木剣の剣先が総長の顎下に吸い付く様に添えられた。なぜ、俺の動きを見失ったかは、まあ、そんな大したことじゃない。でも、なぜ、死角からいきなり、剣を突き付けられたかは、判らないはずだ。


 停止。エネルギーの停止。空気すら揺らがない。


 声がかからないので、勝手に木剣を納めた。まだ、この場にいる全員が現実を認識出来ていない。

 正直、これ、多分、次は出来ない。総長の実力と自分の実力。現在の力で比べれば……当然総長の方が強い。模擬戦というか、稽古というか、勝負というか、まあ、所詮、木製の棒、剣での戦いの結果でしかない。


「こ、これで、よ、よろしいですね?」


 なので本人も唖然としていた甲田さんに言ってもらった。その声に、場の音が戻る。


(ああ、ああ、我が主君マイロード、さすが、我が仕えし御方。素晴らしい、素晴らしいですが。これより討伐隊は潜在的に敵対すると思わなければ)


(んー大丈夫だと思うよ?)


(いえ、ヤツらの総長への敬意は相当なモノです。宗教の教祖に対する崇拝に近い。何をしてくる事か判ったモノでは)


(大丈夫。そんなこと言ってる場合じゃないから)


「なんだと? ドラゴン?」


 ほら。決着直後、駆け込んできた隊員からの報告。小さい声だったが気になるワードが聞こえて来ちゃった。

 

 そこから先は。情報統制されたため、何も漏れてこなかった。なのに。俺たちは、誰もいない出張所ロビーのソファに座っていた。


(なぜ、帰っちゃダメなのか)


(……なんとなく予想は)


(?)


我が主君マイロードは総長に勝ちました)


(いやー一瞬優位に立っただけだよ。実戦なら、あの後、まだまだ続いたと思うよ? 本気……ではあったけど、まだまだ明らかにしてない技。あったろうし)


(そうかもしれません、相手はEX立花ですからね。本当にトドメを刺さない限り、あそこからでも、何が起きても不思議ではありません。ですが。あの場では勝った。そのイメージは消えません)


(? つまり?)


(先ほど聞こえたドラゴンが、私の知るあの「ドラゴン」であれば。遂に、ということになります。戦力は多ければ多いほど良いと、考える者がいても不思議ではありません)


(ああ、そうだねぇ。すごく嫌な予想だけど、当たってそう)


(はっ。申し訳ありません)


(いやいや、申し訳ないなんてトンデモナイ。俺なんて所詮、16歳、高校生の浅慮な思考、データしか持って無いわけだし。諫言は大いに結構)


(その辺が既に高校生らしくないと思うのですが)


 まあ、そうか。というか、そういうことだろうなぁ。


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