0061:象の~以下略

 さらに。渾身の初撃が避けられたと判明した瞬間。振り下ろした力のベクトルに逆らわず、そのまま回転の遠心力に逆らわず巨体をひねり、二撃目に繋げてくる。

 この流派、一撃必殺、二の太刀要らずとか言われているけど、それは大抵の敵が一撃で沈むからだ。当然、こうやって二撃目、三撃目に繋げる連続技も存在する。


 んー似たような動き、大氾濫のふるーい動画で見たことがあったけど、桁違いにパワーアップしてないか、これ。


我が主君マイロード、ここは迷宮です)

 

 ああ、ああ、そりゃそうか、うっかり。


 それにしても……象の軽業師か! 功夫するパンダとかあったな。確か。


 と、突っ込みたくなる動き。それもそのはず。動画が撮影されたのは大氾濫時。ということはあれは迷宮外。でなければ動画撮影できない。


 腕輪が力を与えてくれる、余計に成長させてくれる、ここ=迷宮では、彼ほどの……古強者となれば、さぞやレベルも上がっていることでしょうよ。正直実能力的には、当時の数倍じゃ済まないハズだ……。


 うん。


ズン……


 遅れて響く轟音。振動となって大地と、それに伴う空気を歪め、軋ませる。その揺れも予想して先手を打つ。足先のバランスを上手く整えて、重心を微妙に、こまめに移動させる。


 発生した波のような空気の塊が身体全体を歪ませる。足先にキチンと力を与えて、適度なタイミングで踏ん張る。でないと、ヒラヒラと落ち葉のように舞ってしまいそうだ。下っ腹に響く波。ゴウンゴウンと三半規管もろとも揺れる。気持ち悪い。


「躱し、た?」


「な、なんで」


「あれを? なぜ」


 余りの質量の移動に、舞い上がっていた土埃が収まり始めた。前の立ち合いの山野さんと同じように驚愕の表情の総長。ついでに周りからザワザワと小声の囁きも聞こえる。


 まあねえ、普通なら、初対戦なら、最初の振り下ろしの時点で硬直してしまい、攻撃を喰らう予定だったハズだ。討伐隊関係者予定では。

 しかもさすが総長というべきか。何もしなかったら確実に半身を潰されていた。子どもでも学生でもない。不明の対戦者に対しても手を抜かないなー。俺の力を見切ってるってことなのかもしれないけど、10級新人探索者に繰り出す技じゃないよ。こえー。


 いやいやいや! 余裕ないって! あんなの! 


 さらに追撃は止まらない。ハッスルしすぎ、総長、張り切りすぎですって! マジデ! さっきの稽古を見てるうちに、辛抱たまらなくなったって所だろうか。ああ~もう、やだなぁ。だから戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーは嫌いだ。


 総長クラスの達人になると、獲物、今回の場合は六角棒の長さが変幻自在になる。体の向き、腕の長さ、そして、脇に挟んだ際の距離。握る位置を微妙に変化させてくるので、対戦している方は「あとどれくらい棒の長さが残っているのか?」が分からなくなる。


 違和感で思考が止まる。そして、そういう戦い方を強いることを得意とするのが、総長「EX立花」だ。


 突きの間合い。これを後ろに下がったら最後……のハズなので、ワザと後ろに下がる。当然の様に伸びる射程。握りを緩めて伸ばしたのではない。くっ。反対側に手を当てて……強引に突き出したのか。


 んーでもなぁ。心のどこかに稽古っていう甘えもあるのかな? 大前提として。


 棒が来る。伸びた棒が……目の前で止まる。そう。ここですよね。螺旋の回転が止まるのもこのタイミング。つい、口の端が上がってしまう。総長の顔には驚愕の表情。ええ、そうでしょう。これを完全に避けられたなんて……過去になかっただろうし。


號!


 おちょくられた仕返しとばかりに……螺旋に捻り込まれた棒が空気を纏って突っ込んでくる。


 ちょっ、いや、まっ! 待って! くそっ! さ、さすが……というか、これ、いや、その、うん、なんでそこからさらにがあるかな? 当たればお終いな突きの連続だけど。でも、強引に豪快に力を乗せてきている。それはもう、確実に、筋肉の予備動作が読める。


 そして。避けるだけなら、そこまでムチャクチャな攻撃じゃぁない。正統派の。但し剣道、剣術に加えて棒術。まあ、さらに背景には居合、槍術、他、様々な武道が複合されているのが透けて見える。示現流も……ってあれ? 


 いやでも、正直、棒の纏う空気が破裂し続けている。しかもそれをキチンと避けていても、ズバズバと……防具の端が千切れ飛び、腕や脚、浅い切り傷を刻み込む。まあ、うん、血を見て焦ってしまうと、ドツボにハマる感じだろうなぁ。


 総長って警察関係出身じゃなかったような。生粋の元自衛官じゃなかったっけ? その前があるのかな? 何していてもおかしく無いか。


 というか、若い頃、武者修行とかやって全国行脚とかしてそうで怖い。「たのもー」とか。似合う。笑。そしてあっという間に道場破りそう。師範代とか簡単に吹っ飛ばす系。



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