0060:EX立花
「
甲田さんにすかさず言ってもらった。ヘタすると剣を折るとか、討伐隊を辞めるとか、そういう話になりそうだからね。ここにいた隊員からそういう嫌味を言われたりしないだろうけど、本人がね。イロイロ喪失してそうだし。
うーん。だめか。そうか。折れたか。
「さて。
「おうよ!」
あーうーん、甲田さんの台詞にとても元気の良い反応の山。このオヤジ……自分で言っておいてなんだけど……やっぱ止めとけば良かったかなぁ。ヤバいなぁ。
まあ、さっき甲田さんにも止められたしね。本気で。巻き込まれならともかく……自分から言うのは、と。
何よりもこの人……本物だ。根本的な波動が違う。所謂、S級、第一線級。これまで死合った中で……本気の爺ちゃんクラスは初めてかもしれない……。しかも迷宮内だからなぁ。容赦ないだろうなぁ。一流探索者の中でもある意味有名度も断トツだもんなぁ……。
見開き背景に大文字でドン! とか、ゴゴゴゴゴゴ……なんて擬音が目に見えるかの様だ。
オーラが、オーラが半端なさ過ぎる。どんだけ威圧すれば気が済むんだ。これ多分、本人は意識して無いよな。
体格はちょっと横に大きい。でも身長はドンと大きい。確か……2メートルちょいか。
さっきの山野さんだってそこそこ大きかったのに……数倍巨大に感じる。そういえば、背の高いドワーフとか言われてたな……海外のファンに。
手にしているのは二メートル弱の角材、の様な六角棒、か。これまた、多分トレント系? かな。練習用の木刀とか木剣とはレベルが違うじゃん。ちっ。棒術って総長貴方の本気武器種じゃないですか。さすが、本物。容赦ないなー。
仕方ない。こちらも最低限、闘えるようにさせてもらおう。幸い……というとアレだけど、強敵相手に闘ったおかげでパラメータ項目はそこそこ整ってきているハズだ。まあ、まだ、ただただその数値が低く目で、経験が足りないのはいたしかたない。
準備が出来るのならまあ、何とかなる……と思いたい。
硬質化の付与を行う。地の術の基礎。全ての物質の堅さを上昇させる。我ながら魔力の錬り込みに時間がかかる。とはいえ。結果はレベルとか熟練度とか練りとかで左右されるが、今の俺でも……木剣に鋼鉄、いや多分、迷宮産の新金属くらいの強度を与える事が可能だ。
「なっ!」
「ああ?」
見学者の一部が驚愕の顔で、声を挙げた。怖いよ? 柄の悪い声になってるのも、つい、漏れてしまったのだろう。ですよねー判る人には判るよね〜でもそれが俺から発せられたモノ……とは判ってないのか。そうだよなぁ。もう少し離れて……指向性を確認しながらとかなら判ったのかな?
ああ、木剣とはいえ、刃の部分を指でゆっくりなぞったりした方がよかったかな?
(
パーティ会話は……なんていうか、漏れても良いかな? っていう心の声もなんとなく伝えてしまう。
(宇宙刑事ばりに?)
(子供の頃のヒーローでした)
(基本が出来たらやり方のコツを教えるよ)
(光栄です、よろしくお願いいたします。是非とも学習させていただければ)
「始め!」
構えから、思った通りの第一歩。「鬼斬」の人と同じ感じの踏み込み。ただ桁が違う。鍛錬の量が違う。
一撃が。
来る。
違和感。
音が追いついてない?
変形の蜻蛉の構えからの振り下ろし、「鬼斬」の上位互換か。そりゃそうですよね。ただ単に示現流傍流の基本だからね。そんな技を使ってもおかしく無いよねぇ。
バン!
というか、上段からの振り下ろし。なんてことはない、フェイントもなければ、そもそも技ですらない。
が。それが必殺。何もかもをその力でねじ伏せる。無茶を鍛錬の回数で成立させてしまう。持っている獲物はただの六角棒なのに。
それでも。余りの勢いに距離感が狂う。凄まじい焦燥感を覚える。
感知能力に大半の感覚を切り替えて、客観的なデータを受け取っていなかったら、多分、正面から思い切り喰らっていただろう。スピードを感じないので対処が遅れる。避けられない。なんていうか……はたから見ていれば、自分から当りに行ってしまう様に見えるハズだ。振りに引き込まれるというか。
これが……世界に轟く、「EX立花」……か。
彼と対峙していると、視界を奪われ、一瞬、思考能力、意識が寸断される……というのは、対戦者談話でよく目にした。あり得ない事象に脳が現実を拒絶するのかもしれない。
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