0056:いちゃもん

 討伐課、迷宮局情報課らを交えた全体会議は無駄に膠着状態が多かった。


 亜種とはいえ、新種の魔物が確認されたことにより、「更なる新種が出現する可能性があるのではないか?」という、世界有数の専門家がこれだけ雁首並べたにも関わらずな、陳腐な結論しか導き出されなかった。


 迷宮対応力最先端を行く東京都迷宮局であっても「怖いのだ」。迷宮で起こる事象に対して、未見の場合、どのような惨劇が巻き起こるか、予想が付かない。

 断片的な情報から、短絡的な結論を導き出し、結果信じられないほどの被害を発生させてきた。統計調査的な最低限のデータ数量で証明されない限り、結論は出せない。当然、それでは間に合わない事もここにいる全員が理解している。


 だから、悩む。どこかで、誰かが、線を引いてくれないものかと思いながら。


 会議が終了したのは既に夜も深くなってからだ。


(申し訳ありません。落とし所がここしかありませんでした)


 うん、まあ、流れ上仕方ない。会議最後の、その話し合い聞いてたし。多分、俺一人で彼らと対峙していたら、もっと酷いことになってた。成り行きで頷くことになって、全員と戦うことになっていたかもしれない。


(問題ないよ。ありがとう。良くやってくれました)


 会議の終了直前。討伐隊側から、俺の実力が疑問視する意見が出されたのだ。


 未確認新種亜種、真紅狂熊クリムゾンマッドベアは、最終的に甲田さんも倒れ、俺一人がボロボロになりながら倒したと、報告してある。ボロボロとはいえ「俺=10級初心者高校生探索者」という、探索者の中でも最低最下層な存在如きに倒せるレベルであれば、そこまでの脅威ではない。この世界の実力、能力を考えれば、そういう意見が出るのは当たり前だ。


 まあ、少なくとも討伐全隊員選抜強者たちが集結するまでには至らないだろう。


 にも関わらず、既に命令は発令され、作戦も動き出そうとしている。納得がいくのは俺が、俺如きで無ければ良いのだ。とのこと。


 と。いう言い訳。


 んなの、ただ単に俺の力を「明らか」にしたいだけだろ。


 武闘派(笑)大学生を病院送りにし、「鬼斬」を薬であしらい、問題児ランカー二人を潰した、新種を屠った「らしい」、御厨流次期当主、未来の四条宗主と噂のある高校生の10級探索者であるガキの力を。


 ああ、あと、池袋で「何かを」やらかしたのも伝わってるかもしれないな〜。甲田さんの準備室だけ、異様な残存魔力だったろうし。


 仕方ない、か。この程度の軋轢はあって当たり前だ。ここまで平穏に上手いことすり抜けて来た気がするし。


 目立つのは覚悟していたんだけど……ちょーっと速いかな。まあでも、俺は俺の持つ力の異質さを理解しなければ。


 迷宮外での素の腕力、体力は学年平均か、ちょい上くらいだ。ただ、戦闘時は気合? のおかげかイロイロと能力アップしている気がする。


 武術、特にじいちゃんの流派、御厨流の修行のおかげでスニーキングからの暗殺術、奇襲等もなかなか使える様になっていると思う。徒手空拳の組み打ち術もそこそこいける。


 剣術はナイフ、短剣、以外はほぼ独学だ。現在、メインでロングソードを使っているのは、長物はそれしか使った事がなかったからだ。技等に関しては見よう見まねと言っていい。だが見ていた相手が一流の武芸者が多かったためか、感知能力と相まって見て避けるのはそこそこできる気がする。


 知力、学力はまあ、うん、全国模試で上位50以内、偏差値70ちょいなのは誇っていいだろう。入学後も手を抜いてない。正直、必死だ。学生探索者用の返さなくて良い奨学金だとか、優遇なんちゃらを利用するには、学力に秀でているというのは非常に大事だ。


 魔力が多いのも確実だ。三歳までの環境が大きかったのだろうと予測される。今も毎日、魔力量の増加するイメージで術を使い続けているので、増加し続けてる、と思う、と良いなあ。確認出来ないからなんとなくだけど。


「それにしても天下の討伐隊が。ガタガタ五月蠅いことです」


(しょうがないよ。各地の安全も確保しないといけないし、大きな予算も動くわけだし)


「それはそうですが」


(甲田さんはさ、自分の目で見て、さらに的場さんの件があるからそうなるけど。あの人たち実際には何も見てないじゃん?)


「ログだけでは信用できない内容なのは理解してますが」


(会議……さ、飽きたというか、面倒くさくなったというか、そういう理由でいいよ、もう。分かりやすいよ。俺もそう思ったし)


我が主君マイロードが納得されているのならこれ以上は言わないようにいたしますが」


(ずっと座ってて、逆に疲れちゃった。あんなんよりも身体を動かす方が楽だ。)


「それは確かに」


 うん、甲田さんの笑顔はそんなに爽やかじゃない。


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