0054:圧迫会議室

「貴様、きちんと説明をし」


ガチャ


「遅れました、我が主君マイロード


 ドアが開くと同時に、小さい声で呟いた甲田さんが俺の横に立った。腰に手を置き、一礼。そして、身体を正面に向ける。俺の説明を詳しく読まずに今にも首根っこ掴もうと、近づこうとしていた雑魚(いや、多分、隊長格)の動きが止まる。


 遮る様に立つ甲田さんは、まるでナイトって感じ? 顔面は……まあ、うん。大抵の女子に不細工と言われてしまう感じなんだけど。でも。立ち姿がカッコいい。明らかに長い手足がメチャクチャ映える。惚れる。かばうのスキル発動か。これ。


 着ているのは通常の黒の背広上下、ベスト。タイは細目。濃紺かな? なんかシャツの胸元に飾りが入っている。タキシード、燕尾服などの所謂、執事服ではないんだけど、なんかソレっぽいのは……手袋だろうか? 黒上下に白い手袋。なんていうか、少々オーバーアクション気味なので手の動きに視線が動いてしまう。


「どういう事ですか? 天下の討伐隊総長、副長、監査役、数隊の隊長、幹部方々勢揃いして、探索者とはいえ年少者、高校生に対して、ドアの外にも洩れるほどに恫喝とは」


 ん? 監査役もいたのか。ああ、いたね、いるいる。


「な、何を、貴様は!」


「3級の甲田です。菅田さんはお久しぶりで」


 総長の右の方にいた別のオヤジの人が曖昧に頷いた。ああ、甲田さんは知ってて当然か。菅田寛三(すだ かんぞう)。「鬼斬」の「飼い主」、討伐課三番隊隊長だ。


「納得のいく説明をお願いできますか?」


「いや、我々は〜うーん、赤荻くんにね、新種の話を聞こうと思っただけでね」


 菅田隊長は苦労人らしい、独特の疲れを身に纏っている。見た目はすごく普通の眼鏡係長な感じだし。まあ、見せかけだけどな。


 それにしてもこいつ、どこかの潜伏者くさいな。所作が……明らかに某軍のカモフラにって、わざとやってるのかな? もしも正解なら長期潜入タイプだよなぁ。まあいいや。俺には関係ないし。

  

「ならば、数時間後にリスケされた情報課担当者を交えた会議で意見を交換すれば、問題ありませんね。手元にあるであろう資料にこれっぽっちも目を通すことなく、がなるヤカラがいるとは。天下に聞こえた迷宮局討伐隊も腐り始めましたか」


「なに! お前!」

 

 ズン……と、多分威圧だ。総長が目配せする。今、何か言おうとしたヤカラが、慌てて口を塞ぐ。


 まあでも、甲田さんはそんな威圧をものともしない。


「ちなみ。念のため音声は録音状態です。ここなら、ギリギリ稼働しますからね。確認いたします。問題ありませんね?」


 甲田さんの語尾が強くなる。


「あ、ああ」


 菅田さんがやれやれといった感じで頷く。


「では、閣下には休憩していただきます」


 だから、その閣下はやめてって何度も……。ぞわぞわするなり。


 と、あっという間に。有無を言わさずに、会議室から連れ出されてた。


 おう、申し訳ないのう。ありがたい、ありがたい。そのまま、ちょっと離れた小さい会議室に連れて行かれて……ソファに座らされる。あれかな? ここはこないだの打ち合わせ室みたいなものかな? ランクが高ければ優先的に貸してもらえる部屋に似てる感じだ。


我が主君マイロード、災難でしたね」


(ありがとう)


「いえ、この手の対応が唯一、私が必要とされる部分かと愚考いたしました。今後も、お役に立てれば」


(ああ、そうだね)


 あの日以来、甲田さんは押しかけの……お笑い芸人の弟子? の様な行動を取っている。俺が家を出ようとするとススっと玄関前に立っているのだ。


 今日はいなかったので、もう飽きたのかな? と思ったんだけど、違ったらしい。


「少々気になることがありまして。そのせいで遅参いたしました。申し訳ありません。ただ、判る限り調べて参りました」


 固ぇ。喋り口調が。敬語とかいらないって言ったのに。


 なんでも、討伐隊の主要メンバー、実力者が巣鴨に集結「しすぎている」らしい。この手のケースの場合、どんなに緊急事態でも、討伐隊二隊、多くても近隣に展開している三隊から精鋭が派遣され、その中で問題を解決するのが普通だそうだ。


「ですが。先ほどの会議室からもお解りの通り。討伐隊総長、副長、監査役の三役揃い踏みに加えて、上位十隊の隊長、副長クラスの実力者が全て揃いつつあります。いくらなんでも十番隊全てから……とは念を入れすぎてる」


 討伐隊は現在、二十番隊まで存在する。そのうちの半分、レベルの高い順に十番隊までが都内番として、強者や手強い魔物、都内の迷宮に配属され、治安維持を行っている。


 十一から二十番隊は定期巡回で全国を巡って、大氾濫を食い止めている。都内よりは各地方の方が深い迷宮や強い敵が少ないため、戦力的には問題ないのだという。


 で。その実力者揃いの十番隊全てから、上位者が集うらしい。なんだ? 天下一の武術大会でも行われるのかな? 一年に一回のお祭りとか。


 あ。戦闘中毒患者バトルジャンキーかわいそー。こういうの絶対参加したいジャン! アイツみたいなヤツ。俺の様な善良な一市民? に手を出すから! バチが当たったんだ。絶対。


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