0052:殲滅

 案の定。


 うん。知ってた。厳つい男たちが数名。案内された会議室に詰めていた。結構広い部屋なのに。なぜだろう? スゴく狭く感じる。

 俺を呼んだ理由という名の言い訳は「巣鴨迷宮異変に伴う新種・亜種の討伐考察」。まあ、どうとでも言えるよね。本当のとこは……うん。


「御厨流次期当主、未来の四条宗主にしては、線が細いの」


 ほら。入った途端にこれだ。もー何だよ。こちとら闇の一族(笑)なんだぞ? そんなでかい声で口にしていいモノじゃないんだぞ? もー。


 まあ、ただ口調に棘は無い。単純な言葉に威圧が乗ってるだけだ。ってそれだけで、もうイヤになるけど。何それ重い。


 目の前に大きな山が一つ。そして鋭利な刃物の様なのっぽ。もの凄く普通のハゲオヤジ。その他が三名。計六名か。


 ぶっちゃけ、その他三名も強さだけなら「鬼斬」と良い勝負だ。なので、それ以外、のっぽ、オヤジ、特に山がやべえ。

 うちの爺ちゃん……ほどではないけど。まあ、でも、世界のトップクラスなのは間違いないだろう。裏を含めて、だ。


 で、その三人。素性は聞かなくても分かるし、知っている。探索者には超絶有名人だ。


 特に山は……東京都迷宮局討伐部討伐課総長、「不動」立花隆平。既に伝説と化している有名動画のせいで、世界的には「殲滅立花」「extermination=ex.Tachibana」の方が有名だ。ある意味、探索者と言われて世界の人がまず思い浮かべるのは彼の姿だろう。その他にも「ハルク立花」とか「ドワーフ立花」とかまあ、様々な別名が生まれるくらい、認知度は高い。


 彼の肩書き、役職的には課長でしかない。が、部下人数は五百名を超える……ってことは、軍隊なら少佐か。でも課長。ああ、そういえば史上最強の課長とも言われている。


 相撲取りとはまた違う筋肉系の巨体。大鉈と呼ばれる分厚い鉄板の様な両手剣を振り回す姿は、迷宮初期にアップロードされた動画で何億回繰り返し再生されたかわからない。


 そもそも迷宮最初期に現場指揮の自衛官として派遣され、それ以来生き残っている事がスゴい。その頃のデータを見るに、今から考えればわざと命を投げ出しているのか? と疑う様な行動も多かったのだ。

 まあ、銃器神話、科学神話の存在など、それまでの常識が強大過ぎて、仕方なかったのは判る。だがそれにしても犠牲は大きすぎた。当時の頭……特に首相が年寄りで、既得権益、既得制度にしがみつきすぎた。迷宮といういきなりのアクシデントに対処出来ないばかりか、結果的に、被害拡大に注力してしまった。


 特に竹芝迷宮の大氾濫に伴う……「晴海封鎖時に於ける自衛隊、警察特殊部隊による封鎖撤退戦」での「殲滅」立花の活躍は非常に有名なエピソードだ。が、この戦い自体は自衛隊創立以来、最大の失敗、最大の人災とまで言われている。


 当時、米軍基地引き上げに伴う、自衛隊人員補完計画が発動中であり、自衛隊員の総数は四十万人。そのうちの十パーセント、四万人近い隊員が死者となった。

 そのダラダラとした逐次導入した用兵はとんでもなくお粗末、酷いもので、なんらかの作戦を明示されることもなく、文字通り、一般市民の「盾」となって死んでいったのだ。


 その辺の悲劇は探索者マニアでは、知らないなどあり得ない。ちなみに小説化、漫画化、アニメ化もされている。


 遠距離からの粗い、ノイズ混じりのその先で、オーガの太い腕が、棍棒を振り下ろす。


 迎え撃つのはお土産用の美術品系武器屋さんが看板として製作した鋼鉄板の某両手剣。それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。鉄塊だったってヤツだ。常人では持ち上げることすら難しいそれを。遠心力を利用して振り回し……その最先端を、ちょうど、棍棒の振り下ろしにあわせる巨漢。


ギオオオオオオオオ!


 その音は聞こえないが、オーガが叫んでいる。その肉に食い込み、喰い千切った鉄塊。それまでほとんどダメージを与えている様に見えなかったバケモノが初めて、明確に損傷した。


 あれは、人の手で、損なうことが出来る。そして、ならば。打ち破る事が出来る。人類が滅亡だけでなく、ヤツラを殲滅することができる。


 と、明確に刻み込んだ。


 その「殲滅」立花の映像は……当時の魔物との戦闘は……戦闘とも言えないレベルのモノが多かったが、明確に「人間が魔物に立ち向かう、立ち向かえる様」を見せつけた。俺的に……これは国とか都、迷宮局がわざと配信、流布したと思っている。総長が戦う姿はそれまで魔物に対して絶望しか見いだせてなかった日本人に、初めて「戦える」という気持ちを植え付けることに成功した。


 さらにその後の映像に……朧げながら映っている、後に無名勇者、最強術士と呼ばれる強者の存在も大きかった。

 総長の影に隠れていてイマイチ分かりにくいのだが、魔物との戦闘に長けた者が見れば、明らかに彼が敵を引きつけ、多くを「魔術」で屠っている。


 多数を相手にする無双っぷりは、まるでゲーム。その迫力は作り物ではないか? CGではないか? と、見ている人の認識力に違和感を感じさせるほど、ぶっ飛んでいる。未だに多くの攻撃魔術はこの映像から得たヒントを元に構築されていることが多い位だ。



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