0051:呼び出し

 今日は土曜日の朝。学校は休みだ。


 普通の探索者は未だに侵入禁止なため、ほぼ人を見かけない。元々巣鴨は賑わってないが、それでもここまでガラーンとしてる迷宮ってものを見たことが無かった。さっき一度出張所ギルド周辺を見てきたが……なんというか、草、土、岩肌……テーマパークなんかにある作り物の様にも見える。


 調査は難航している様だ。


 フェイズ4、警戒管理中のまま、既に二週間が経過している。最初に行方不明になった6つのパーティ及び、それを探索に向かった迷宮局職員(2人とも討伐課へ転課志望の5級探索者だったらしい)は不明のまま。さらにそこに、高ランク探索者二名の行方不明(公式発表)と、俺の持ち込んだ未確認新種亜種、真紅狂熊クリムゾンマッドベアの情報のせいだ。


 探索者の死亡は全て行方不明で処理される。通常の失踪ではなく特別失踪ってヤツで、失踪した日から1年間音信不通状態の場合、失踪の宣告が適用され、死亡されたものと判断される。


 明らかに目の前で死んでいても、書類上はそう処理される。これは、過去に死んだと処理されたのに2週間後に帰還した探索者がいたためだ。


 特に良くも悪くも目立っていた上位ランカーの二名の消失に、当局は事態を重く見ていた。というか、見ている様だ。


 かといって、未だ、事の詳細が見極められていない現状では、事実をマスコミへ発表するわけにもいかないらしい。被害は探索者にしか出ていないわけだし。大変ね。その辺のバランス。


 迷宮特需、迷宮景気で、ここ十年日本は世界で唯一異常な好景気を維持しているにも関わらず、当たり前の様に迷宮重視政策反対派は存在する。特に探索者の命が軽視されている! と叫ぶ人権団体という「探索者」でない者が常に騒いだりしているため、当局は繊細な情報のコントロールを強いられているのだ。さらに大変ね。


 そのため早期に片付ける必要があるらしく、密かに実力ある隊員が、巣鴨に召集され始めているらしい。これまたネットの噂。もう、もっと大変ね。


 特に、当局討伐隊の精鋭が集まりつつあるそうで。なんとなくだけど……そのネットの噂は多分、本当だと思う。だって、ここにいると、ヤな気配がものすんごい。隊員全体で動くと、何かとマスコミに気付かれるが、数名ならしばらくは誤魔化せる。って書き込みあったけど……本当にそうなんだなぁ。組織ぐるみで情報を抑えようって場合は、普通なモノなのかな?


 あの「鬼斬」クラスの猛者が集う……ってさ。1人でもヤバイのに、数人ってのは正直シャレにならん。法の看板を背負った戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーはクソヤバイ。側にいるってだけでこちらが、精神に致命傷を受けかねない。僕まだ子供だし、10級だしなぁ。ぶるぶる。


 ぶっちゃけ……「鬼斬」の人と顔を合わせたら、連鎖してクソ面倒くさい連続イベントが起こる気がするので、関わりたくなかったんだけど、そうもいかなかった。高階様……というか、出張所から指名で特別な依頼が発生していたからだ。


 まあ、これは俺にとってほぼ強制依頼に近い。法律的に巣鴨の依頼を受けずに他の迷宮へ行くことも可能だし、現在の巣鴨迷宮の特殊状況下での調査の協力も任意だ。


 でも、それらを拒否するには「それなりの理由」が必要になってくる。それこそ、家族を養うために毎日一定金額稼がないと、とか、他にもっと重要な依頼を執行中だとか。俺の場合、午前中に……とか言われたら、伝家の宝刀「学校が~」と断れるが、学校終業後の放課後、又は休みで問題無いと言われてしまうと逃げようがないのだ。


 これまでの功績から出張所ギルドにある程度の実力はバレている。それはいい。だって判断してくれたのが高階様っぽいし。うれしい。


 人手不足が解消されても、級数が低いのに強制依頼が発注され続けているのがその理由だ。


 さらに、俺、当事者だしね。事の。一緒に帰還した甲田さん(まだ本調子では無い)の立場(高ランク、池袋ホーム)を合わせて考えたら、この呼び出しを避けるという選択肢は選べなかった。


「赤荻様、少々よろしいでしょうか?」


 依頼詳細については迷宮局の担当者が来てからという事だった。で、まだ、二、三時間かかるそうなので、適当な敵のいそうな場所で時間つぶしでも……とした矢先。カウンター越しに我が女神、高階様から声を掛けられた。


 この表情の高階様の「少々」よろしいでしょうか? は「クソ面倒くさい事に巻き込まれそうな予感がするけど、申し訳ありません」の略だ。多分。そんな口調で、困り顔だ。


 誰だ、高階様にそんな顔をさせたのは。責任者出てこい! ごら!


 うん、そんな親身になって事前情報を教えてくれる高階様の為にも、答えは。


「は、ははは、はい」


 しかあり得ない。超絶クールビューティに今日も輝いている高貴な彼女が無駄に嫌味を言われたり責められたりするのは納得いかないからね。




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