0048:ホワイトアウト

「な、なんで……」


 何で話せないのか。ええ、自分が頼んだからです。


「というか……誰?」


 おお、この段階になってやっと現役最強アイドルが道端の石ころにお気付きになった。


 とはいえ、まあ、イロイロ答えられるワケがない。状況的にも、物理的にも。


「泰代、この方は私の御主人様となる方だ。失礼の無いように」


「へ?」


 イヤイヤ、まあ、ですよね〜。


「この、ちいさい子が? 中学、あ、高校生じゃないの?」


 そうですよね。うん。見える。身長162センチに加えて童顔。身体の線も細い。迷宮にいるって事は免許を持っているって事なワケで、最低限が高校生となるわけで。


「泰代、頼む、何も聞かずにしばらく外で待っていてくれないか? 目立ちたくない。宗一はこの後、絶対に病院へ戻す」


「そ、そんなこと言われても……」


 なっ! 甲田さんのキモマジメな真剣な物言いに、あの剣幕が怖じ気づいた? というか、あれ? あれれ? なんか、顔赤くね? アレじゃね? これ、ヨスヤが甲田さんを好きなんじゃ? え? マジで?


「兎に角、すぐに終わる。大人しく外で待っていてくれないか?」


「やだ。判ったけど、何をするのか、見届ける」


「頼む」


 甲田さんが頭を下げた。


「……やだもん、だって、何かするんでしょう? お兄ちゃんに。なのに外にいるのは、やだもん、ぐす」


 おおう……クールビューティで有名なヨスヤが子供の様に泣いて……そうか! ヨスヤの本名が泰代さんで、後ろから読んでヨスヤか! あーそっか。なにこの知らなくても良い豆知識! でもすっきりした。ってあれ?


(我が主君、今はそうではなく……)


 ……。


 というか我が主君て……マイロード、か。そうか。どこか懐かしい。


 まあ、うん、はいはい、すいません、なら、いいよ。何やら貴方たち三人の絆は強いみたいだし。それならそれでやりようはあるんだ。


(他にこの部屋に入ってこれる人は?)


(いません。この3人だけです)


 車椅子の的場さんの身体全体を膜状の魔力で覆う。その膜に激しく光を発する術を付与する。そして更にそれを動かしてやる。


 これでもう、正確な魔力を検知できる人間はいないハズだ。


 こんなモノは単なる目眩ましでしかないが……今の世界の魔術レベルでは、目眩ましということにも気付けない。そんなレベルではこれから俺がすることを、そばでジックリ見ていても、どうにも理解することは出来ないだろう。学習したいと思って見ていても、差が開きすぎていて、どうにもならないくらい溝がある。


 目眩ましの下、的場さんの治療を開始する。


「ま、眩し! 何コレ、進次郎さん、何」


「魔力が……あ、いやでも、何が起こって? これ」


 ヨスヤが大慌てで、甲田さんもかなり動揺しているのを、的場さんには何一つ理解出来ないはずだ。術をかけられてる側には効果が発動しない様にしているからね。


 魔力で施術するのに、さらに魔力で余計な事をしたらミスをする可能性は大きくなる。大丈夫だと思うけど、万が一は怖いし。


 ということで、的場さんの体内で魔力によって異物になってしまった破片を一つづつ、潰してゆく。正確には砕くとかだと余計な症状を併発しかねないので、鋭角な部分を潰して、取り出してしまう。迷宮内であればそれも難しくない。

 

 大きめな破片が五つ。小さめな物が十八。放置しておいても大丈夫なヤツもあったと思うが、その辺の差は判らないので、破片は全部処理させてもらった。

 

「見えないー何もー」


 ああ、申し訳ない。術を切り忘れてたや。文字通り、目眩ましの光術をオフにした。


「あ」


 キョトンとした顔でヨスヤが辺りを見渡している。


(これで根本の問題はどうにかなったハズです)


(え?)


(もうでしょうか?)  


 まあ、そりゃそう。何時死んでもおかしくない、治る見込みがない、絶対安静と診断されていた重症患者に、たった数分間施術して、治りましたよと言ったところでそう簡単に信用されるワケがないだろう。


 なので。


(とりあえず、今日はこのまま病院へ戻って、精密検査の再診を希望してください。その後は……任せます。何か聞かれたら、迷宮の奇跡が、とでも答えておいてください)


 便利な言葉だ。


(……?)


(……かしこまりました)


「では、戻ろう」


「あ、ああ。判った。戻るか」


 素早くドアを開けて、甲田さんが、車椅子の的場さんをUターンさせた。


「い? え? え? 進次郎さん、兄さん! ど、どういう?」

 

 ヨスヤが、いきなり帰ろうとしている二人を追いかけて、後を追う。


 最後は俺の事を気にする余裕もなかったようだ。一瞥もなかった。うむ。寂しいが、アイドルとしてはそんな物だろう。この部屋は腕輪によるオートロックだ。閉めるときに鍵は必要無い。忘れ物を確認して普通に外へ出た。


 多分、出張所の視線や話題は、甲田さんと車椅子の的場さん。更にそれを追いかけたヨスヤが引き受けてくれたのだろう。こちらは誰に注目されることなく、普通に腕輪で免許チェックをくぐり、帰宅した。


 ただ。


 何となくイロイロと負けた気がしたのは何故だろうか。これは当たっている予感がする。



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