0047:そのタイミング
あーならば。偽勇者がちょっかい出すのもそりゃしょうが無いか。
妹って……それかーアイドルだしなー。ヨスヤはアイドルが売りを求めて探索者になった、じゃなくて、探索者として活動していたら、あまりの可愛さにスカウトされて、迷宮局からの特別依頼で、広報活動の一環でアイドル活動をやらされてる。というのは有名な話だ。
芸能界なんて全く興味が無いが、受けた仕事は手を抜かないというマジメさが良いと評判だ。探索者が主役の朝ドラでサブヒロインとして人気爆発した。まあ、本物だしな。そりゃ迫力出ちゃうよね。アクションシーンもイイ感じだったし。当然、俺も毎日見てた。ヒロインよりもヨスヤ派だった。
それにしても……的場さん……ヨスヤに似てる……というか、ウィッグ着けて女装でもしたら、ヨスヤを大人の女にしてクールビューティな感じの超美人確定じゃないですか。やばい、無駄にドキドキする。俺の人見知りスキルが最高振り幅で上下し始めた。
(問題無いです。では、早速)
取りあえず、その辺を誤魔化すためにも、とっとと施術してしまうことにする。
池袋
地上の病院の検査では四カ所に大きな破片が散っているとの事だったが。
今、詳細な魔力感知の術を行ってみると、体内に散っている破片は二十三カ所。粉砕骨折で生まれた破片は、魔力によってコーティングされている。そのため自然治癒すること無く、逆に的場さんのギフトによって変質し、体中で異物として暴れ回っている感じだろう。
まあ、正直、見た目で判断しにくいもっと小さなウイルスとか何かの病気よりも、判りやすい。そもそも認識出来る大きさ、違和感なので、これなら俺でもどうにかなるか。
「し、進次郎さん、何を!」
さあ、これからと言うときに、バーンという擬音と共に思い切りドアが開いた。
(うぉ!)
くっ、迂闊。慣れない治癒系の複雑な施術に、対象が好きなアイドルの身内、さらに同性なのに美人という緊張感の中、周辺感知すら怠ってたや。最低限、ドアに術による施錠くらいはしておくべきだった。
入って来たのは野球帽を被った小柄な少年……いや、声が明らかに女だった気がする。っていうか、俺の知ってるイメージとは凄まじくかけ離れているが、やべえ、そりゃそうか、彼女の出身、ホームは池袋迷宮ってインタビューで読んだわ。登場してもおかしく無いよな。そりゃ。
と、いうわけで、いきなり現れたスポーティな少女。御本人である。ああそうか。だよね、兄を取り返しに来るよね。だっていくら幼なじみとはいえ、甲田さんみたいな怪しい感じの探索者仲間に、イケメンの兄が連れ去られて心配しないハズが無い。
ちなみに彼女が着ているお洒落スポーツウェアは彼女がスポンサードされてるナイギのオリジナルブランド……「ヨスヤン」の最上位、いや、当然オリジンオーダーか。
最新のレア系鎧に比べれば、若干落ちるが、純粋な防御力だけでも、数代前の一線級の「鎧」と遜色無いそうだ。何でも、開発時に幾つか偶然が重なったらしく、量産化の際にどうがんばってもオリジンを超える性能を記録できなかったという。オーパーツ呼ばわりも致し方ない。
ちょい前の号のエクマガで、製作秘話レポートを読んだばかりの浅い知識だが、そばで見るとこれがトンデモナイ性能なのは伝わってくる。お値段も付けられないとか何とか。
その手のオーパーツとか、組み合わせによる特殊進化とか、迷宮産の素材には多くの浪漫が詰まっている。それがゲーム的というか面白くて、自ら素材を集めて研究する探索者も増えているらしい。
そのために、ここ最近、ヨスヤが迷宮に潜ると必ずナイギの社員探索者が十名単位で着いてきてウザイと、本人がSNSに書き込んでいた。というか、当然、俺は彼女のアカウントをフォローしている。高校生男子がアイドルのSNSを追っかけてしまうのは仕方ないよね? キモくないよね?
あれ? そういえば、最近更新なかったな。この件で大変だったって事か。
「進次郎さん、何やってんのよ! お兄ちゃんも何で脱走とか! 死んじゃうんだよ? これ! 子供じゃないんだから!」
何万人に1人のアイドルが見事に御立腹だ。
「進次郎が大丈夫だって言うから、大丈夫なんだよ」
「大丈夫なハズないでしょう? 生きてるのが奇跡、動いたらほぼ死ぬとまで言われて」
「いや、でも、ここまでこれで来たけどさ、ほら、生きてるし」
「偶然に決まってるでしょ? バカなの? どんな根拠が」
「それは話せない」
す、すげー甲田さん、ヨスヤに正面から睨み付けられて、それを平然と流してやがる。さては……慣れてるな? 美形に。そりゃ慣れるか。でも……このレベルの男女が幼なじみ的に側にいたなら。なんていうか、歪んじゃうなぁ。多分。
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