0045:願い

 で。だ。うーん。これはどうすればいいのだろうか。


 事後処理あとしまつが終了すると、再度。甲田さんの土下座が始まってしまった。なんなら、さっきよりも力が入っている気もする。なんだ。何があったのか。


 ギルドの打ち合わせ室。ランキングに名を連ねるレベルの探索者であれば、優先的に借りることができるスペースだ。


 そこで土下座。


 というか……こういう命がけで願いを請う人……久々に見た気がする。ああ。うん。俺も……多分、どちらかといえば、こちら側の人間だったわけで、流れ的に放っておくことはできないだろう。と思う。


(話してみて。そんな真剣な願いに対して何ができるか判らないけど、考え無しに断ったりしないから)


 土下座は動かない。が。


「私の幼なじみに的場宗一という探索者が……います」


 表のランキング1位「無双」間宮宗一=偽勇者と同じ下の名前を持つ的場宗一さん。甲田さんの願いは親友の回復だった。


 あの悪者二人が言っていた、痛めつけられて病院から身動き取れなくなった探索者だそうだ。ああ、そういえばいたな……的場宗一……ランキングで100位近辺をウロウロしていたハズだ。特に目立つ要素……特徴とか悪い噂とかもなかったので、名前を覚えるほどではなかったが。最近リストで見かけなかったのは怪我で入院していたのか。


 で。甲田さんによれば。


 的場宗一、彼は非常に正義感が強く、以前から何かと偽勇者一味と対立していたらしい。そもそも、最初は名前が同じだというだけで向こうから絡まれたという。


 おお、そうか、偽勇者悪者決定か。うん、いいぞ。


 さらに、的場さんの妹も探索者なのだが、それを偽勇者が気に入って、なんとか口説き落とそうと何度もちょっかいを掛けてきていたそうだ。それを無碍にされていたのも理由の一つだという。


 彼が、ヤツラにされたのは物理的な怪我。そして、何かアイテムでも使われたことによって、しばらく回復魔術でも治りにくくされたのだという。ちなみに、証拠は無い。何かあったハズだと、的場さん自身が思っているというだけだ。


 とはいえ、迷宮での探索者のダメージ回復、治癒率は地上よりも高い。偽勇者側は当然として、怪我を負わされた本人も嫌がらせ程度の感覚であり、当初はさほど重大な事と考えていなかったそうだ。

 駆けつけた甲田さんたちによって、迷宮内で魔術による回復が行われ、安静にするという名目で地上の病院に入院した。

 が、運が悪かったのか、その過程のどこかのタイミングで、粉砕骨折した手足の骨の欠片の一部が体内、血管に侵入。それが幾つかの部位で悪さをしているらしい。場所によっては今後手術で処理出来るモノもあるのだが、一番ヤバイのが心臓付近の欠片で、摘出手術もできない状態だそうだ。これは……歩いたりで震動が与えられると、いつ死んでもおかしく無い爆弾を内蔵し抱えているのと一緒の状態なのだという……。


 なので、なんとか一部欠損はあるものの車椅子での日常生活が可能……となりかけたのだが、再度絶対安静、ベッドから動かせない状態にあるそうだ。


 話を聞くとなんか、近代医学でどうにかできそうな気がするのだが……。


「暴行後、迷宮にしばらく放置されたことによって、肉体が変に回復してしまった部分があって、癒着がおかしいことになっているのだそうです。なので一筋縄ではいかなくなっていて……」


 ああ、ということは的場さんは自己回復系のギフト持ちか。自覚無く使えていたのだとすれば常に発動し続けてるタイプ。この手の「内部に異物が残っている」場合、確かに逆効果になる事がある。骨が骨で無くなってしまっているのだろう。


 さらに、通常の病院で、何かを治療するにしても、迷宮帰りの特殊事情を鑑みて、保険が利かない高額医療になってしまうのだという。まあ、それも聞いたことがある。外の医者で治さなくても、迷宮で魔術で治療すれば一瞬で治ってしまうので「迷宮での傷」と言った時点で、何かあっては困ると高額治療コースに変更されてしまうと。


「しかし、しかし……貴方様の術、魔術であれば……いえ、先ほどの術は我々の知る魔術とは大きく違う……どちらかといえば、魔道具の魔力というか……ああ、いえ、良く判らないのですが、なんというか……澄んだ魔力というか。アレであれば宗一を助けられるのでは無いか、と」


 ああ、うん、まあ、理由はわかった。うーんと。えーと。ちょっとそんな噂のある彼にそれを聞くのは違うのかもだけど。でも。


(なぜ、そこまでして彼を助けたい?)


「彼は……私のヒーローでした。幼い頃からこんな容姿だった自分は常に虐められっ子で、宗一はいつも助けてくれました。ですが、そんな彼は実生活で非常にツキが悪く。兄妹が多い上に、御両親を中学生の頃に失っていますし、探索者としても苦労続きで。さらに今回の仕打ち。彼はこんな目にあって、あんな人生を過ごすことになってしまって良い人ではないのです。せめて私と、私の様なお金のためにイロイロと汚いことに手を染めてきた人間と入れ替わってでも、幸せに、お日様の下で生きる権利がある人なのです。おべがいじばう……がれを、かれをすぐって、すくってあげて、くだあい……」


 最後の方は既に号泣と混ざり合ってしまって何を言っているのか良く判らなかった。が。うん。「恋人なんです」とか「好きなんです……」なんてセリフが出てこなくて良かった。


 別に自分と属性が違う人を差別する気にはならないけど、こちとら社会生活の少ない高校生。直接は触れあったことないし、あまり聞いたことがないからね。うん。ビックリしちゃいそうだったからさ。


 現代医学が匙を投げた患者を治しちゃうのかぁ……ってまあ、迷宮がもてはやされているのはそういう所だしな。全般的に。医療に関しても、迷宮での病気治療とか、魔術治癒とか、まあ、イロイロと言われ始めているし。


 ただ、一番の問題は、現在彼は迷宮外の普通の病院に入院中……ということか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る