0044:土下座
「こ、この、水……いや、この術は……というか、あ、貴方の魔術は」
うん、甲田さんなら判るか。だよねぇ。そうだねぇ。素質在るみたいだからね。自分でも気付いてないみたいだけど。感知できるよなぁ。成り行きだったけど、イロイロ見せちゃったし。
水を生み出す……という術は、他にも使える探索者がいるだけに分かりやすく比較しやすい。まあ、多分……ここまでハッキリした……生活に密着してるかのような「普通」の魔術は……多分、見たことが無かったハズだ。そもそも、攻撃用の魔術っていうのは派手だけど、魔力の発露や動勢はホンの一瞬で、じっくりと観察していられるようなレベルじゃないからね。
「じ、じ、じふゎじぶんの、ま、まじゅちゅ、つい、ついては、と、とりあ、え、な、ない、な、ないしと、と、い、いう、こと、でで」
「それは当然。理解致しました。何故、貴方が、自らの力を隠したいのか」
あ、あれ? 何かさっきまでと口調が違う様な。あれ? どうしたんだ? これ。
「約束は厳守致します。いえ、私の持つ全財産も献上致しましょう。ですから、ですから一つお願いがございます」
ざざっ! と音が聞こえた気がした。が、がーん……いきなりの土下座……。そ、そう来たか。というか、何がどうなってそうなるのか。どういうこと?
どうやって言い訳しようかと思っていただけに、こいつは予想外の展開過ぎる。えーと、なんだおい、どうすれば。シナリオ分岐的にどの方向に進んでいるのか? これ。
「もしも願いが叶った暁には、我が命、我が生涯を捧げましょう。いきなりの請願、無礼は重々承知で、お願い申し上げます」
そう言ったきり、まさにThe土下座。顔を上げない。
うーん。話が進まないというか、まずはやることやらないと。取りあえず話を聞くことを約束して、事後処理を済まそう。
(まずは、今回の処理をします)
(はっ。かしこまりました)
何か突然の展開に焦ってしまって、折角パーティ会話だとちゃんと会話ができることに気付いたのに、通常会話で話してしまった。2人しかいないけど、この後はパーティ会話だ、パーティ会話。
今、ここには
まず。クリムゾンの死体はそのまま、保存庫に収納する。コイツは未確認の新種だが、丸々は迷宮局の討伐部情報課には引き渡せない。高額買い取り間違い無しなんだけど、どうやって倒したのかを検証されはじめるとイロイロと面倒なことになるからだ。
残っている頭部、右手、下半身の一部を……切り落とし……後でこれを提出して、鑑定してもらうことにしよう。迷宮初心者が剥ぎ取りを上手くできずに、本体を迷宮に回収されてしまうのはよくある話だし。
残りは全部、とりあえずしまっておくか。残念だけど魔石の即換金はお預けだ。多分、結構お高く買ってもらえると思うんだけどね。
「鉄塊」「黒刃」の遺体は。
腕……の残骸から腕輪を回収する。急ぎであればこれだけでもいいが、今は周りに敵もいない。めぼしい装備を回収し、便利袋に詰める。
便利袋は超強化なんちゃらポリマー製で薄いのに破れない、名前の通り便利なヤツだ。腕輪の機能である保存庫にあまりモノが入らない(魔力の多寡によって変化するため)探索者にとって、魔物の素材を集めたり、採取時なんかに非常にありがたい。通称:探索者ゴミ袋。これを俺の保存庫に突っ込んだ。
ヤツラの肉体は……まあ、じきに迷宮が吞みこむだろう。その証拠に、既に、俺が最初に倒したマッドノームたちの死骸は見あたらない。
腕輪に残されたログからは「俺たちと訓練していた際に、未確認体に襲われて、倒された」というくらいしか判らない。
とりあえず、これら事後処理によって……上位探索者2名と暗闇下での訓練を行っていた俺達2名。未確認新種の魔物に不意に襲われ、最初の一撃で大きなダメージを受けてしまう。上位探索者2名はランキング下位の俺たち(特に俺)を庇うように戦うも、力及ばず、惨殺され喰い千切られてしまった。
危機一髪だったが、この時点で、かなり弱っていたのもあって、俺たちは必死で2名の残した傷痕(口や喉)を攻め続け、なんとかヤツを倒すことが出来た。
俺と違って甲田さんはなんだかんだ言って実力者だしね。その状態で在れば、主に彼の力でヤツを倒せたという物語を生み出すことに成功した。
傷もかなり派手に負ったが、甲田さんの持っていたレアなポーションによっていまでは見る影もない。で、言い張る。
かなり胡散臭いし、さらに裏を知ってる偽勇者一味からしたら「あり得ない」ということでこちらを疑うことになるだろうけど、まあ、そんなのはどうでもいい。
幾ら強くても、ヤツは勇者ではなく、偽であって、さらにあんな部下しかいないところをみると、その強さもそこまでではないのではないか? と思えてきたし。
全面戦争だ。
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