0043:魔術
ズグンっ……
下っ腹に響く重低音。衝撃波の塊が奴の身体を中心に……波が如く広がる。
ガアアアアア!
絶叫。まさに命そのものを糧にした叫びが、熊の口から溢れ出した。遅れて大量の血も続き、塊のように、ダーダーと体外に排出されていく。
うん、腕を食い千切られる危険を冒したかいがあった。
どうかな、置き土産は。気に入ってもらえたかな?
奴の食道、いや、首で吹き飛ばなかったから、すとんと胸辺りにまで落ちたのか。で、爆発したのは小さい卵型の爆裂手榴弾。当然、魔道具だ。知識と魔力があれば魔道具作成のスキルが無くても作れるレベルで、本来なら花火以下と言われた簡易な作りのマジックアイテムだ。
が、実は。
製作時に流し込む魔力を練り込んでやると、これ位の高威力となる。アレだ、こいつを巣から追い出す際に使った遠隔起爆可能な火炎瓶系効果をもたらす魔道具の圧縮版だ。
多分、レッドの内側、体内はズタズタになっているはずだ。
魔力を持つ者、魔物だけでなく人間もだが、使いこなせば使いこなすほど、常識がすり替わっていく。魔力で自分を強化するのは外敵からの攻撃に対処するためだ。
その際に意識するのは自分を守る防具であり、盾であり、幕、衝立、障壁。まあ、とにかく外側を意識して術を構築する。
特に魔術を本能で使う魔物は、この傾向が強い。
って何が言いたいかといえば。さっきみたいに器用に魔術を使いこなす様な奴は、それをしなければ生き残れなかった理由がある。純粋に素の防御力では敵わない脅威が生存競争の過程に存在した。とかだ。
それこそ、ドラゴンあたりに追い回されて生きて来たのなら、まずは、その一撃に耐えられる様にならなければ、話にならない。
なので。どんなに魔術を使いこなしている魔物でも、内部、体内からの攻撃には当然弱い。外側には非常に気を使うが、内面、自分の内臓や器官自体を強化しよう……なんて発想は出てこないからだ。この辺、人間と大きく違うところだ。
魔物の最高峰、人間とは隔絶した存在であるドラゴンですら、内臓を始めとした内側……中身は普通なのだ。でなければドラゴンステーキの旨さが伝説になっていないだろうし。
魔力を使用して強化していた魔物は死亡すると徐々に魔力が抜けて行く。もしも内部まで強化出来ていたら、魔力が抜けるまで何日かかるか判らない。ガチガチな魔物から内臓などの希少部位、凄まじい価値となるレアアイテムが確保できるのはそういうワケだ。
悪足掻きか、力無く紅い腕を振り回す。ゆっくりと、そのまま動きが止まる。そして、大きな地響きと共に、レッドの巨体が横たわった。口からゴホゴボと、さらに赤黒い血液が溢れていく。
あれ? こ、これはぁぁぁぁああ! ……俺の右手、
とんでもなく臭う!
何か諸々でくちゃい。野郎、何食ってやがった。歯磨きとかしないからなぁ。当然。
水、水を……仕方ない。甲田さんがいるが、俺の大事な
-滝-
無詠唱……。使っちゃった。分かりやすく。詠唱短縮している呪文はどもらない。つっかえないんだから、「水塊」くらい言えばよかった。くそう。焦ってしまった。そばに誰か他人がいる状態で使うのは初めてか。初めてだな……。問題無く発動出来てしまった。良かった。良かった?
何もない虚空から、小さな滝のように、水が溢れ落ちる。落ちた水が上へ。循環する。グルグルグル。回転を速く、激しくしていく。そこに、くちゃくなっていた篭手を思い切り突っ込んだ。
魔術のスゴイ所は、こうして激しい水流に手を突っ込んでも、水しぶきが激しく飛び散らないこと。自然の滝の流れに手を突っ込めば、バシャバシャかかるじゃないですか。アレがない。自動的に結界が張られているかのように、最初に設定した領域からはみ出ることがないんだよね。なんか不思議。
自動洗浄というか、洗濯機というか。食器洗浄機というか。水圧で汚れを、匂いをこそぎ落とす。
ふう……本来の篭手自体の洗浄は、専用の薬液で表面を拭うくらいだからなぁ。全面的な水洗いOKだったっけ? 洗えるよな。確か。
まあ、良く考えて見れば。篭手は当然、防水防塵仕様のため、お構いなしで左手で擦る。匂い、取れるよな? まあ、ダメそうなら出張所でメンテナンスの詳細を聞いて洗剤で洗おう。
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