0041:真髄

 そもそも、探索者の中で魔術の素養、才能を所持している。魔力がほぼ皆無で、探索者腕輪を使用出来なかった者も、一年程度迷宮で活動していれば、腕輪の最低限の機能を十全に使えるようになっている。過去、そこに例外はない。


 それなりに大きく目覚める事が出来るの人は10名に8名といったところだろうか? 確率的には多い。その比率は年々上がっているようだ。


 が。


 そこから、魔術士として使いものになるのはその中の……1~2人。さらに、範囲魔術で魔物を倒せる様な破壊力を込められるのは、選ばれし者のみなのが現状だ。


 全探索者を対象にしても、実用レベルでの用例を証明出来る者が、たった二百名程度しか存在しないのだ。分母が二百では学問として体系的な検証も遅々として進まないのも仕方ないだろう。正直、これでも多くなった方なのだし。


 ちなみにその辺が確認出来ているのは日本のみだ。他国にも……いるのかもしれないが、それも元は日本で経験を積み、成長した後に自分の国に帰った探索者だろう。


 そもそも、測定用の機器も覚束ない、科学の力を持ち込めない迷宮での情報収集である。だからといって体感でのデータを実用レベルと言い切るには、試行人数、試行回数が足りていない。


 今は研究者には辛い時期になるのだろう。その分、自分の調べた法則などが、「使える」となれば、即新常識としてルールとなるのだ。言葉の意味は違うが、まさに生きている学問。遣り甲斐という意味では近年まれに見るレベルかもしれない。噛み応えあり過ぎだけど。


 実際、その辺のリソースが足りなすぎる。


 日本魔術協会代表、魔術士ナンバー1の「張角」宮沢賢太郎氏は元東大助教授で、迷宮を学問として捉えようとした先駆者だし、ナンバー2、うちの大学の迷宮学部の実質トップ、迷宮学の世界的権威でもある「記録者」逢坂今日子専任教授はフィールドワークとして、自ら迷宮深層に挑み続けている。


 まあ、そんな、権威者自らが現役であり、データを取っている時点で、どれだけ体系化出来てないかが解ろうというもの。


 実際、目に見えて、威力を伴う攻撃系の術はそこそこ解析され初めている。何を計測するにもわかりやすいというのは大きいのだろう。回復系の術も命に直結するからか、それなりに動きや情報が蓄積され初めているようだ。


 問題は付与系、補助系の術、だろう。これは迷宮で凄まじい力を発揮する探索者の素の状態がきっちり計測できず、及ぼす影響、威力の振り幅が大きすぎて基準が判らないため、レベルアップに寄るものなのか、スキルなのか、術の効果なのか、判別が難しいのだ。


 現状では、何となく使える者が何となく使う。おまじない、ジンクスレベルになっている。まあ、事実、それはそれで無意識、無詠唱で術を行使している訳で、悪いことではないのだけれど。


 如何せん、それでは本来の術の10分の一の効果も得られていない。なのに魔力の消費は激しい。そりゃそうだ。魔術は……イメージ力が非常に大きく関わってくる能力だ。自分が「何で何をしたいのか」をどれだけリアルに想像出来るかが、威力や魔力の消費量に直結する。


 って……うん。ごめん。


 前置きが長くなった。


 そんな魔術の真髄の一端をお見せしよう。


 自分の身体に中級の強化魔術を重ね掛けしていこう。


 身体の中の魔力を意識する。ここでは主にこれから使う術で消費する、魔力量の最終確認だ。


 次に魔力を術に合わせて変質させる、練り込む。これが個人の魔力の質によって感覚から何から違うので、変質の修練は死ぬまで続く、と言われていた。ここまでをどれだけ速く出来るかが、魔術士の強さを決める事も多い。


 後は詠唱と操作……になるのだが、付与や補助系は発動後の細かい操作は必要ない。


「速度」「反応」「硬質」「腕力」


 小さく呟く。呪文の効果は文字の意味、そのままだ。強く願い、強く思い呪文を使えば、当然、その分、速くなり、反応良くなり、固くなり、力が上がる。やり過ぎてしまえば、自らの筋組織を破壊してしまう。そのギリギリを見切るのが技となる。


 詠唱する呪文の文言は漢字二文字に集約した。


 これはもう、自分がキチンと言葉を発せられない以上、必須と思い、最低限にイメージで凝縮させたのだ。まあ、呪文詠唱する時は1人でいる場合が多く、結構な長文でもちゃんと発音できることに気付いたけど……後の祭り。必死の努力はなんのためだったのか……とも思ったが。


 当然、最初は全く発動しなかったが、既に何回繰り返したか失念するくらいの数、繰り返した修練で何とか取得することが出来た。


 そしてさらに。心の中で詠唱することで、無詠唱も可能になっている。まあ、うん、短い呪文なだけに、イメージ時間が圧縮され、無詠唱化しやすくなった……と前向きに考えることにしている。


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