0039:出会った
ここ数日で、巻き込まれすぎている。
最初は誰かに仕組まれたのかと思ったが、そんな大ごとでは無いようだ。なので、今回の俺を狙う流れが、お漏らし女に関係あると仮定すると、色々と納得はいく。
やばいことに巻き込まれている。高校生の駆け出し探索者が、何も準備せずに、迷宮に通う……「子供が何か対策を取れるはずがない」と大人が思うのは勝手だが、ここまで狙われてて、何もせずに、毎日迷宮に顔を出す初心者って言うのはどうなんだろうか? 少なくともそんな大人の望む子供であれば、ただただ考え無しだろうし、考え無しに免許を交付してはいけないし、何よりも、そんなん、すぐ死ぬ。
迷宮では男女も大人も子供も初心者も熟練者も無い。全ての探索者に平等だ。
当たり前だが、その辺の問題を解決するために、ワザと迷宮に通い続けているのだし、トラブルの迷宮外での対処も勉強したいなぁと思って、爺ちゃんたちには、手出し無用としてもらっている。もしも、なりふり構わない理由があれば、動いてもらっていただろう。そうすれば、あっという間に謎は解け、解決していたと思うし。
で。そんな俺からのサプライズ。喜んでいただけたかな? どうかな?
颶風。
強く激しい風を指すその言葉にピッタリの風が、ゴウゴウと目の前で吹き荒れる。と思った瞬間には茶色……いや、赤い何かが風を纏い「戦鎚」を殴り、引摺り倒していた。
容赦ない一撃。「戦鎚」の巨体はあっさり宙に浮き、激しく地面に叩きつけられた。武器である戦鎚も吹き飛んだようだ。
吹き飛ばし……のついでの様に叩きつけた爪で「戦鎚」の右肩は装備毎抉れ、拉げ、捥げ、繋がっているのかどうか良く判らない。大きく爪の……3本のミゾ。地面にも跡が付いている。
ああ、これほど圧倒的だったのか……。奥にいた
この赤い颶風は……多分、
纏っている風、アレは移動速度上昇の魔術だし、さらに爪に強化魔術も施している。外見は大きめの熊さんなので……きっと詠唱なんてできないだろうから、アレだけの魔術を無詠唱、一瞬で行使出来るということになる。
「あ、あれは……
甲田さんがやっと何が起こったか理解して呟いた。そう。目の前の赤毛は、俺がこの前倒した
もしも
その術が範囲術なので非常に厄介というか、準備をしていなかったらよほど高レベルじゃないかぎり耐えられない。大抵の人間は巻き上げられ、身動きできなくなり、細かく切り刻まれて終了だ。高レベル探索者でも風で行動阻害、吹き飛ばされて意識を失うくらいは普通にあるくらい強敵だ。
現に、身体の大きさが違う。
だが、今、目の前で暴れているヤツは、その数倍……全長4~5メートルはあるだろうか? 大きく伸びれば6メートルにも届きそうだ。それがあの速さだ。とんでもない。
そもそも、
巣鴨迷宮は現在、35階層までしか攻略されていない。赤毛だとしても、いるはずがないのだ。
さらに、それ以上に強い上位種など……聞いた事がない。
そもそも、赤といっても毛並みも、どちらかと言えば茶色だったはずだ。それがこいつは真っ赤。紅色。クリムゾン。
つまり。あいつは
真紅……赤というよりは紅の風が、「戦鎚」の傍にいた「黒刃」にも襲いかかる。速い。スピードタイプの「黒刃」が完全に翻弄されている。
出会いは偶然だ。この階層に着いて最初に広範囲で魔力感知を行った時に、大きな違和感を感じた。慌てて、まずはそこへ急ぐ。次の階層へ向かわない分岐の隅に、ソイツはいた。
この階層にはあり得ない、余りに暴力的な圧力。なので遠隔起爆可能な火炎瓶系魔道具を巣になりかけていた広間に設置。ヤツに勘づかれないように、かなり距離をとったが。さらに、ソレの起動と同時に熊系の魔物が好きじゃない匂いも撒き散らすように設置する。
別に当てようと思ってはいない。大きなダメージを与えられなくていい。爆破の方向を制御して、こちらに来やすいように仕向けてやれば問題無しだ。
なので、余裕を持って魔道具を起動させた。
案の定、巣を荒らされたと怒った深紅熊は、腹立つ匂いを追いかけて、大急ぎでここまでやってきた……という、至極単純な罠だ。というか、到着まで速すぎてちょっとびびった。
なんだかんだで「黒刃」に匂い玉をぶつけたのがギリギリだったしね。もしぶつけそこなっていたら、面倒な事になってたかもしれない。
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