0037:鉄塊と黒刃
「哮る鉄塊」大垣省三は岩のようなゴツイ顔をしている。身長は二メートル近く。年齢は……二十八歳だったかな? 老け顔で、見ようによっては五十代位に見える。いわゆるマッチョ体型、いや、とにかく殴る系の超人体型をしている。その分厚い筋肉で、操るのは戦鎚。両手持ちの柄付きハンマーである。
ゲームや漫画に登場するような百トンハンマーほど大きくはないが、遠心力を利用した破壊力は木製の壁や門なら粉々に砕く。大昔には攻城兵器として運用されていたのは伊達ではない。
それこそ。例え防御したとしても、生身の人間であれば当たった箇所は骨毎砕けてしまうのだから。
ランキング100位以内の探索者は様々な過去エピソードがネットで晒されているが、大垣は「無駄にジャイアン」という書き込みが非常にわかりやすい。粗暴で単細胞で人の話を聞かない。良く罠に引っ掛かる……だったかな?
「黒刃」柳原誠。は、身長こそ大垣と同じ位だが、体型は真逆。しなやかな、長距離ランナーといったかんじだろうか? 顔もぎりイケメンと言っても怒られないレベルだと思うが、過去エピソードから考えると性格は非常に陰湿で残酷。目つきにそれがこびりついている。通り名の「黒」はそれにもかかっているらしい。
手に持つのは日本刀。二尺五寸位の至って普通のサイズ。だが、刀身は漆黒。迷宮産の特殊鉱石デルサイトと玉鋼を合成した、新金属製だ……って書いてあった。
俺のニッパン工房制作のクンロクロングソード「切断」だって悪くない。いや、値段の割りには非常に良い。特価だったし。
だが、所詮新鉄(新鉄鋼)。精錬され、剣として特化された特性を持たされているとは言っても、鉄は鉄。迷宮時代になって、新素材が溢れて若干の改良は行われている……らしいけど、新金属には及びもしない。
さらに純粋な硬度の点でも、俺の簡易鍛造の既製品と、名人と呼ばれる鍛冶師の鍛造仕事では比べものにならない。
鍛造、鋳造、削り出し、練成、合成……迷宮で必要とされるようになってから、近接用の武器はかつて無いほどに様々な試行錯誤が繰り返されて進化している。迷宮技術革命と言っても良いかもしれない。
まあ、そんなこんなで。「鉄塊」もいやだが、「黒刃」なんてもっての外。遠慮したい。というか、54位と58位なんて、ランキング上位者と同時対戦なんてあり得ない。
俺なんて当然だけどランキング圏外、測定不能の雑魚なんだから。何よりも面倒くさい。奴ら、頭悪そうだけど、技量もそこそこあるっぽいからなー。
グワン……
振り回すことで空気が歪む。「哮る鉄塊」大垣の操る戦鎚は範囲攻撃なのか? という位、広範囲に仕掛けられている。回転を生かしたスタイルで、動きを止める場合は、わざと地面に武器を撃ち込む感じのようだ。
バカみたいに派手だ。土塊を一緒に吹き飛ばしながら、旋回させる。近付くのが面倒くさい感じで、暴れ始めた。
ああ、うん、なんていうか、それでいいのか? と問いただしたいバトルスタイルだ。
一方、「黒刃」柳原は……黒い刃が光を反射しないこともあって、間合いが非常に読みにくい。しかも、居合のような動きを取り入れているので特に距離が掴めない。
こいつと対峙した者は……いつの間にかやられてる……パターンなんだろうな。ついうっかり殺してもまあ、いいか……ここは迷宮だ……的な投げやり感を感じる。
というか、最初から殺す気で来ているのは柳原だ。さっさと仕留めるつもりなのか、俺の方に仕掛けてきていた。
車椅子だなんだと言っていたが、勢いで殺しちゃうつもりなのだろう。まあ、俺が未熟すぎた、弱すぎて加減ができなかった……なんて言い訳すればいいと思ってるのかな。多分。そんな目だ。
腕輪のパーティ機能だと、離れた場所での戦闘の詳細は伝わらない。言動から推測するに俺が甲田さんを戦闘で打ち負かし、抑えたとは思っていないのだろう。話し合いの末、見逃した、甲田さんが自ら引いた……なんて感じか。
(戦鎚……をたのみま)
甲田さんから了解の意思が伝わってくる。
「俺が甲田だ。さっさと合流しろ」
「命令するな」
俺に柳原が近付いてくる。大垣の大雑把な攻撃で、既に甲田さんとは分断されていた。
10級だしな。万が一にもあり得ないよな。雑魚をさっさと片付けて、甲田さんを痛めつける……作戦なのかな。車椅子とか言ってるけど、変に抵抗してくれれば殺せるのになぁ~という圧が、刃の先からにじみ出ている。
ヒュン……
かなり……間合いが広い。戦鎚の攻撃でドッタンバッタンと効果音がうるさい中だと、見当をつけにくい。
キン
いくら熟練の技、さらに日本刀だとしても、俺の担いでいるロングソードを斬り落とすとか、削り取る事は出来ないようだ。
刃を斜めにして受け流した一撃は軽い。体勢を低く保ち、こまめな移動、踏み込みで、パワーポイントをずらす。角度を付けて受け流せば、全くダメージを受けない。
正直、武器による攻撃はこのポイントを感じ取れたらかなり有利に対応できる。
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